勉強のやり方小話

 勉強のやり方として、ベタ一色型の勉強がある。定時・定量がその特徴で、1ページ目に1時間を割いたなら、次の2ページ目にも1時間という時間を充てる。3ページ以降も同様にして同じ時間・同じ量だけ勉強していくやり方をいう。あまりに単純で愚直なために、試験勉強にはそぐわない。けれども、このやり方は、古典の勉強によく合う。

 古典というのは、そこに何が書かれているかを読んで知ればよいというものではない。本文の内容と同程度に、どうしてそれが当時に書かれたのか、筆者はどんな気持ちだったのか、どうしてそれが現代まで残っているのかといった、書かれている以外のことも、よくよく重要になってくる。

 というのも、古典が書かれた当時は、現代のように、インクや紙は安くはなかったからだ。高価なものであったたろうし、たやすく手にも入らなかったことだろう。加えて、文字そのもののコストが、実に高かったはずだ。義務教育もないわけで、文字を覚えるのはすべて自腹・自費。いろはにほへとの、「いろは」3文字を知ることですら、幾ばくかの金か銀が必要であったろう。

 また、印刷技術なぞてんでないから、古典のすべては、自分の手で書いて写すという、絶大な手間のかかる書写によって作られてきた。こうしたことから、古典の1文字・1文字には、相応のコストがかかっていると想像するのは如くはない。昔の人だって忙しかった。その古典を写すだけの価値が、残したいと思わせる相応の何かがなければ、コストも手間もかけられなかったであろう。

 同じ文字でも、古典と現代の活字や本とは違う。古典は、書かれている意味さえつかんで、勝手に解釈を加えればそれで済む、という代物でない。古典が有する数百年の寿命の前には、我々の手前味噌な思考など髪の毛程度のものであって、こっち側の勝手な判断が効かない。我々が古典を読むのではなくて、古典が我々を選ぶのである。だからこそ、自分の考えを差し挟まず、たんたんと定時・定量に読むという、ベタ一色の勉強が古典には合ってくるのである。

 しかし、先に言ったように、古典によく合うベタ一色の勉強は、試験勉強には適当ではない。試験勉強というのは、有体に言うなら、理解して記憶すれば済む世界である。そして、「2度あることは3度ある」世界で、「3度あることは毎度」であり、「1度もないなら今後もない」世界である。試験の出題事情や傾向を、自分で調べて判断してやっていくのが試験勉強である。試験勉強というのは、こちらの「思考」が効くのである。

 たとえば、1?10のことを、右から左に、同じような労力と時間とを費やすような、ベタ一色の試験勉強はあまり賢くない。やるなら、頻出事項である2・3・4に最優先して時間を割き、次いで、得点源になりうる1・6・7に尽力して、時間があればまあ大事な5や10に手を付ける、手間がかかって点数も低い8は放棄する・捨てる、といった風に進める方が、圧倒的に勉強負担は軽くなる。

 かつての本試験である過去問は、試験の傾向を実によく見せてくれる。過去5年に5回も出ている「A」と、3回しか問われていない「B」とでは、やはり、Aの方に重きを置いて勉強すべきである。1回しか出てない「C」があったり、一度も問われていない「D」があったりすれば、Cについては時間が空いたときに適当にやればいいし、Dについては、よほどのことがない限り、見るくらいに止め置くこととなる。やるべき順番は、A>B>C>Dとするのが、現実的で論理的な考えとなろう。

 なかには、本当に「C」や「D」などを真剣にやらなくてもいいのか、と思う人もいるだろう。確かに、今後の本試験に、「絶対に出ない」と言い切ることはできない。しかしこう考えればいい。

 子供に災害時の対処について教える際、あなたは、サイクロンやハリケーンといった、1年に1回遭遇するどころか、1生に1度遭うかどうかもわからない災害について教えるだろうか。確かに、それらの災害に遭遇しないとは言い切れないけれども、教えるのであれば、やはり、地震だったり火事といった、これまでにあった災害・起きがちな災害について教えるのではないか。

 そして、もっというなら、日常生活で最も遭遇しやすい災害である自動車事故について、やはり、いのいちに教えるのではないだろうか。そうする方が教えたことになろう。出かけようとする子供に対して、「ガラガラヘビに気をつけて」というよりかは、「薄暗くなったら車に気をつけて」とか、「後ろから来る自転車には注意ね」などというのが、現実的な言であろう。現実的とは、過去から決まるのである。

 ひとくちに勉強といっても、考えを差し挟まないベタ一色型のやり方もあれば、自分で考え判断しながらやっていく勉強もある。やり方の適否や、向かい方、処し方を応じて変える。これも、要領の1つのように思われる。

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