勇気・知恵・節制と

 Aという試験がある。受験するが不合格。再び挑戦する。しかし、これまた不合格となる。3度目の正直で再々挑戦するも不合格となる。仕方がないので、今度はB試験に挑戦してみる。1回目も2回目もダメ。相性が悪いのだと、次はC試験を受ける。うまくいった。よしよしと思って四度、A試験を受けてみるが、またのまたまた不合格となる。

 こうした人の話を聞くと感想は2つに分かれる。1つは否定的な評価である。同じ試験に何回も落ち続け、しかも、結果を出す前に他に手を出し失敗している。愚かである、というのが主な主張である。一理はある。もう1つの感想は、肯定的な評価である。何度失敗してもめげずに、挑戦を続けることはなかなかに難しい。挑戦をあきらめない姿勢はよいものだ、という主張である。これまた、一理があると思う。

 事の当否を問わず、結果を括弧がけして考えるなら、あきらめず、挑戦を続けるというのは、何かとても大事な物を含んでいるように思う。今はもうあまり使われないが、1つの徳であるようにも思う。

 確かに、愚かしい側面もあるだろう。同じ失敗を繰り返すにしても、失敗の仕様はある。同じ原因で同じ失敗をするなら単なる馬鹿である。自分のしてきた事に鈍感で無自覚、改善点を見出さず無反省、怠惰であったりする。傍から見れば、ずさん、雑、ザル、見通しが甘いなどの指摘もできるだろう。

 反対のケースを考えてみる。A試験を受けて合格、B試験も合格。Cは少し失敗して不合格だが、たちまち問題点を解決し次の受験で合格。DはC試験の失敗や教訓をフルに活用して磐石の形で合格する。時に臨んで新しい方法を取り入れ、場合に応じて従来のやり方やノウハウに磨きをかけていく。こんな人のこんな話を仮定してみる。

 こんな人は、よく考える人である。勉強対象だけでなく、自分をもよく洞察している。経験を掘り起こして、教訓を自分のものにする。日記で自分の行動を記録して、次の行動に備える。それらを計画や予定に活かしている。

 どんどんと合格していく人を見ると、凄いなあと思う半面で、何か釈然としないものが残るのも事実である。先の失敗を繰り返す人と比べれば、印象が薄いというか、先の人にあった徳めいたものは感じられない。厳しいことをいえば、小手先のことで自分をいっぱいにしたところで、人生の要所で最適な判断ができるとは限らない。そこで下手を打てば、多くはおじゃんである。小賢しいだけではないか、というわけである。

 前者は失敗を恐れない勇気はあるが、知恵に欠けている。知恵無き勇気は、蛮勇や無謀という。また、単に鈍感なだけかもしれない。計算のできない人かもしれない。失敗が時間と手間をいかに労するか、そして自身をも駄目にするかを知らないのだ。1度で終える算段ができないのだ。

 対して後者は、知恵は豊かかもしれないが、勇気に欠けた、失敗や間違いを恐れる者ともいえる。計画に沿った日課をきちんと日々消化し、復習もさぼらず怠らずこなす人は、神経質な人が多い。また、そうしないと不安に襲われる小心者でもある。

 勇気と知恵の関係は難しい。簡単に足して「知恵と勇気のある人になりましょう」というわけにはいかないからだ。相反する両者を無理に結合させようとすれば、小心で馬鹿という、非常に困ったことになる。

 そこで、第3の物を仮定してみる。勇気だけでも、知恵だけでもよくないというのは、それらに過度に偏重するのがよくないわけである。勇気が過ぎれば無謀に、知恵も過ぎれば小心となる。しかし、人は、勇気だけしか、知恵だけしか持ってないという人はない。どちらかに傾きすぎて、一方に偏りすぎているわけだ。ならば、それら両者を調整するような、節制(バランス意識)が導かれてくる。節制は、過ぎた姿勢に平衡をもたらし、両者の間に秩序を生み出す。

 しかし、注意点もある。我々は、節制のみを目的にしてはならないのである。節制にも過度の偏重は危険だ。バランス感覚だけがあって、勇気と知恵に欠けるならば、何もできなくなる。欠点をあげつらって何もしない人は、まさにこのケースである。現状の把握と不利を承知のうえの、生木に焼かれるような現状維持と、何も考えずリスクを負う勇気もなく、知恵に欠け惰性に従う現状維持とは違う。節制は、勇気と知恵を活かすものではあるが、それ自体が重要なわけではない。

 1つしかなければ、考える余地はない。2つしかなければ、そこに選択のみがあり、そこに考えはない。しかし、3つあれば、そこに均衡と秩序を見出そうと、頭がよく動くのだ。行動力や実行力は勇気に基づく。計画や分析、調査は知恵に基づく。節制は、勇気が知恵を育むように、知恵が勇気を生むように、それらを繋げていく。3人寄れば文殊の知恵というが、3点で考えることが良い考えを生むように思われる。本当はあと1つ、第4のものがあるけれども。

ページの先頭に戻る ホームに戻る

 

 
         
コラム一覧でございます
過年度の古きコラムでございます
    
当サイトに掲載している情報は、当サイトがその内容を必ずしも保証するものではありません。 情報の活用は利用者各自の責任の範囲内でお願いいたします。すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。

----- Copyright (C) 独学のオキテ?くらげ (:]ミ All rights reserved -----