金が方便

 試験勉強が面倒くさいのは、明白すぎる理由がある。それは、目に見える対価がないからである。世に面倒な仕事は多々あるが、それらの仕事の仕事も立派に行われている。それには紛れもなく、対価が伴うからである。我々は、面倒で退屈なことでもやってやれないことはない。ただ、返ってくるものがないとやらないだけである。

 開業した場合を考えてみる。○○士という国家資格には開業を許されるものがある。開業した際は、年商1000万の売上になったと考えてみる。人を2人使うことにして、家賃等の経費を差っ引き、年400万の税引き後利益が出ると仮定する。この金額のうち、古人の格言「収入のうち10%は投資に回すがよい」に従って、40万円を貯蓄なり投資に回す。10年その仕事を続けたとすれば、合計400万+運用利回りの金額となる。5%で複利運用できれば、総額5,031,157円となる。今、目の前のテキストや問題集のそれぞれは、その金額を生む原資なのである。テキストが400ページなら、1ページあたり12,577円の価値となる。問題集が100問なら1問に50,311円分の価値があるわけである。

 独立開業できない資格でも、世には資格手当がある。ある資格を取れば、高いところで月5,000円〜1万円の手当が、低いところでも1,000円単位で手当が付く。この手当のすばらしいところは、全くのノーリスクである点である。リスクを追う開業とは、この点で全く異なる。同じ仕事をしても、その資格を有するだけで、プラスの手当が付くのである。たとえば、月1,000円の手当てとしても、年にして12,000円が入ってくる。10年その仕事を続ければ、12万円。そこに運用利回りがプラスされる。同じ仕事・ノーリスクでその額である。先ほどのように、テキスト・400ページ、問題集・100問で按分してみる。内職や副業と考えれば、よい部類にある。

 就・転職を考えてみる。資格の有無は、採用・非採用の重大な部分では決め手にはならないが、ぎりぎりの選択の際に、資格は活きて来る。例えば、最終選考時に、残った数人のうち誰を選ぶかといったときに、少しでもいい人を取りたい企業なら、実績・経験・能力が同程度なら資格のある方を選ぶだろう。それで就職が決まれば年収分が儲けとなるし、転職が決まり年収の増加分があれば、その分が保有資格が貢献した額となる。

 原価から考えることもできる。試験勉強用の教材は得てして値段が張るが、値段の張る良質の教材を使わなければならない。安かろう・悪かろうは教材の世界の真実である。安くて品悪い物を使えば、必ず後で買いなおす羽目となる。余計に費えは発生するし、買いに行く手間も増えるし、実力の伸び・勉強の進捗もともに悪い。断言するが、安いだけの教材は使ってはならない。高くても品質の高い物を選ばないと、余計に損をする。このため、独学では教材に費やす総費用は結構な金額となる。そこで、原価で割ってみる。3000円の教材を買ったなら、割って単価を出す。テキストならページあたりで按分する。理解しできるようになればなるほど、その単価あたりだけ、キャッシュバックがあるように考える。全ページ・全問できるようになれば、全額回収といった塩梅である。要は、試験勉強=元を取る作業と見做すわけである。

 このように、お金の観点から目の前の勉強を見ると、その色合いは異なってくるように思う。灰色の退屈な作業が、金色の作業に見えてくる。夢や目標も、試験勉強のやる気の源泉ではあるが、エネルギーの放出量からすれば、圧倒的にお金の方が強い。非常に大きなエネルギーを生む誘い水となるお金を使わない手はない。「お金」が人によっては強力なやる気の源泉となることを、ここに指摘しておきたい。

 ただ、しかし、勉強というものは、基本的にはお金を求めて行うものではない。お金で考えるならば、もっと儲けのある商売やビジネスは豊富にある。お金で行くなら割のよいそちらの方であって、勉強ではない。お金だけなら残業を増やすなり、副業で稼ぐ方がよっぽど効率だろう。しかし、それでも、我々は勉強をするわけだが、我々は、ただお金を求めて勉強しているわけではないのである。

 「お金」で勉強を計るのは、その現実性である。基本的に資格試験は、実務試験であるから、実際の現場や実務について見ないとわからないことが多い。勉強する多くは机上のものとなって、現実感というか実感が少しも湧かず、本当にしっくりこないのである。しかし、ここに「お金」という強力な現実をもってくれば、抽象性というか空虚感はかなり減じる。(こんなことをしてどうなる)と思いながらの勉強と、(これをすれば○円の価値だ)と思っての勉強では、かなりやる気も違ってくるし、勉強への姿勢も異なってくるだろう。何より、精神衛生上よい。仏の嘘を方便という。試験勉強では、金勘定が方便なのである。

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