自分の基本のところ

 勉強するには、そのための時間が必要となる。どこからか時間を捻出することになるが、いったいどの時間を減らして勉強に充てればよいだろうか。

 すぐに頭に浮かぶのは、睡眠である。しかし、だからといって、すぐさま睡眠時間を削るのは間違っている。よく寝ずに勉強するなんてことを聞くが、例えば、確認や再記憶の勉強なら、睡眠時間を削っても可能である。大半の作業は見直したり読み直したり解き直すだけであり、テキストのどこにどんな内容があり、問題の難易度にもあらかじめ見当が付いている。だから、寝ずともできるのである。

 しかし、確認や再記憶の以前の段階はそうはいかない。作業の強度は明らかに以前の勉強のほうが、具体的に言えば、これまでに見も知らぬことを理解し、記憶に定着させなければならない作業のほうが高い。脳はフル回転する。それなのに、睡眠を削ると脳の理解や記憶を司るところは休むことができない。

 休めずに酷使すれば、勉強の成果も落ちる。次第に、強制終了のための飽きが生じてくる。なまじっか睡眠を削れば、勉強の進捗は余計に悪くなるのである。こうした実情に照らすと、睡眠時間を削るのは、ある程度の勉強が済んだ後半に到ってからであり、序盤や中盤ではしっかり寝たほうが無難である。

 睡眠がすぐに削れないとなると、勉強に充てる時間はそれ以外の時間からとなる。では、仕事や家事・育児からとなるが、うまくはいかないと踏むべきである。基本的にそれらは、自分の時間ではなく、他者の時間だからである。子供(部下)から報告が上がれば聞かねばならないし、子供(上司)に報告を求められればそうしなければならない。子供(部下)に指示や命令しなけれならないし、子供(上司)に指示や命令をされることもあるだろう。

 自分の時間ではないのだから、そこから時間を割けば、全体に不都合が及び、余計に時間が奪われることになる。期待できないと考えていたほうがよい。それでも捻出しようとするのなら、手持ち無沙汰な時間や、空き時間・待ち時間などの細切れ時間を最大限に利用するのが関の山である。

 それでは、勉強に充てる時間を捻出するには、それら以外の余暇の部分からとなる。つまり、趣味の時間やのんびりする時間、だらだらっとする時間である。

 しかし、ここで注意しないといけないのは、余暇の全てを勉強に充てるのではない点である。勉強が久々の人や初学者がよくやる失敗である。余暇の全てを勉強に充ててしまったので、ストレスや不満が上手に発散できず、即断に勉強を放棄してしまうのである。三日坊主はこの口である。

 我々は、余暇には必要な部分と不必要な部分があることを、よくよく自分と照らし合わせて知っておかねばならないのである。

 必要なものとは、原動力や活力を生むもの、やる気の源泉になるようなもの、それがあるから生きているような満ち足りた気分になるものである。ただ、蓼食う虫で大きな個人差がある。ある人にとっては、晩酌や相撲であったりする。団欒や食べ歩き、立ち話、おしゃべりであったりする。子供の寝顔で疲れが吹っ飛ぶ人もいれば、我が子を見ても子犬がうろちょろしているとしか思えない人もいる。

 不必要な部分とは、無くても困らないもの、どっちでもよいことである。例えば、質の悪い新聞や雑誌、テレビ番組を、意味もなく、何かを知ろうとする意欲もないのに、ただ見聞きし、読んでいれば世の中についていっているような錯覚を得んがために時間を割く行為をいう。また、偽物の快楽も、不必要なものの中に含まれる。どれだけのそれに時間を費やそうが、それに量があろうとも、それに回数を重ねても、満たされないのは、本物というよりもより偽物に近いものであろう。

 我々は、自身の必要な時間をよく知らねばならない。そして、不必要な時間が、必要な時間の仮面をしていないかをよくよく調べなければならない。我々は、必要でもないことを、または、不必要になったはずのものを習慣から続けていることがよくある。

 そして、必要な時間は、必ずしも快を伴うものではない点にも注意しなければならない。いやだなと思いつつ仕方なくやるものが、自分の基本のところの人もいる。わたし個人のことをいえば、それは読書である。小さい文字や難解な記述に接したくないが、読書をしないと勉強どころか仕事や日常生活までぼんやりとして、うまくいかなくなる。このことを知った以降は、取りあえず読むための時間を確保している。腐れ縁・逆縁だが仕方ない。

 必要なことと不必要なこととを見分けるためには、時間への意識を鋭くする必要がある。試験勉強はこの意味で、学科で学ぶ事以外に、人に時間の知恵を与えるように思う。何がほんとうに必要かを学ぶだろう。時間に詳しくなることは、賢者の知恵の1つである。そして、人生について考えることとは、時間について考えることに他ならない。古人は、汝自身を知れといった。

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