同じ「する」でも

 同じ「する」でも、人によって結果は異なる。同じ「やる」にしても、成果は違ってくる。同じレシピに従っても、できあがる料理は決して同じものではない。どこか微妙に、ときに大きく違ってくる。

 鳥のもも肉に薬味を添えしょう油やみりんに一晩浸けたものを、キッチンシートに載せてオーブンで焼くだけなのに、できあがりがちがうのだ。父のグリルチキンはおいしく、次いでわたしで、母の鳥料理はいつもまずい。同じ材料で同じ調味料、同じやり方なのに、なぜか違ってくるのである。本当に不思議としかいいようがない。

 医薬品も人によって効いたり効かなかったりする。偽薬効果(フラシーボ効果)は広く知れ渡っている。人体に確実な悪影響があるのが判明しているのは煙草くらいか。薬の中には、極めて目立つ効果のある、取り扱いや処方に注意を要するものもあるが、飲んでも飲まなくっても(気のせいか)で薬効が変わってくる薬も多いのである。

 ある手段なり方法なりノウハウが、等しく同じ結果になるとは限らない。それ自体が正しいやり方としても、100%を保証する完全なものはないのである。「確実なのは、死と税金のみである。」(ベンジャミン・フランクリン)

 試験勉強においても、同じことがいえる。確かな方法論やノウハウがあっても、受け取り方が異なるならば結果も違ってくる。たとえば、「過去問をする」といっても、受け手によって大きく結果は異なってくる。独学では過去問をするなんてものじゃなくて、徹底するわけであるが、こう言っても、過去問の重大性にピンとこない人は多い。それはやはり、身をもって知らないからであり、問題集をやる程度に「過去問をする」を見ているわけである。

 おそらく、こうした人は、問題集を「する」と過去問を「する」との違いを聞かれたら、口ごもるに違いない。なんといっても、わたし自身がそうであったからだ。今では、過去問をやらずして何が試験勉強か、の心境であるが、以前はついぞそんなことを考えてもなかった。ここに、「過去問をする」という確かな方法論やノウハウがあっても、人という問題がある以上は、それ自体で完全なものにはならないのである。

 「〜したほうがよい」とか「〜すべし」というのは、それ自体は等しく未完成であり、事の当の本人であるわたしたち自身で考え直してみて、その当否や成否、真偽は明らかになっていく。仮に、月3%の配当を支払う投資話があったとする。担当員は、その投資の安全性やらシステム云々を述べ立てるであろう。しかし、先も言ったように、ある方法なり手段、理論やノウハウは、それ自体で未完成なのである。そこで、自分で考え直してみて完全なものとなる。さて、では、月3%なら年36%の利率となる。自分に立ち戻って考えてみれば、年36%の金利負担に耐える商売があるのかどうか、なぜ銀行から借りないのか、借りないのは銀行から貸さないからか、自身がそういう旨い商売をしているならどこから調達するかを考えるだろう。

 その昔、万物は水からできていると言った人がいた。この話を聞いて多くの現代人は笑うだろう。しかし、では、彼はどうして万物は水から為っていると言ったのか、その考えはどこからきてどうしてそう結論付けたのか、彼を追って考えることはできるだろうか。実験器具もなく、参考文献もわずかしかなかった古人が、なぜ万物は水といったのか。そこには何らかの根拠と考え、または、思想があったに違いない。彼はどう考えたのか。笑えるのなら、それもいえるだろう。

 わたしは、ある手段なり方法、やり方、理論、ノウハウだけでうまく行く可能性は、最大で80%くらいではないかと思っている。80%というのは最良のケースで、大概は50%程度の部分しか、うまくいく担保にならないと思う。問題は残りの、20%〜50%部分である。そこをどう自分で考えて埋めるかで、結果がうまくいくかどうかが大きく分かれるように考える。

 逆に言うと、方法論の類は、自分で考え直して残った部分を埋めてこそ、うまくいくものともいえる。効果のあるノウハウや正しい方法を知ってはいても、そこに自分というものをあて嵌めてみなければ、完全なものにはならないのである。逆を言えば、自分の考えを埋めることができれば、どんどんとうまくいく。同じ試験を何度も落ちていた人が、あるときを境に初挑戦で未経験な試験でも、つぎつぎと合格していくのを何回も見てきた。残りの部分がようやく埋まったわけである。行動とは、考えるためにあるのではないか。

 ある方法なりを自分に立ち戻って考え直すというのは、めんどくさいものである。しかし、少し視点を先のほうに伸ばしてみるなら、それほど割の悪いことでもない。知識を得るには万巻の書を読まねばならないが、考えることには1冊の本も要らない。喫茶店のコーヒー1杯で事が足りる。銅像・考える人は裸のままである。

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