やらなくてもよい、から
本試験というのは、極端にいえば出題者側が何をしてもよい代物である。前もって公表した試験科目と試験範囲の中であれば、何をどう問題にしてもよい。このため、受験生は受身とならざるを得ず、有象無象の試験情報が無数に成立する余地が生まれてしまう。 それこそ、全合格者に共通する本当のことから合格の可能性をかなり引き上げる妥当なこと、まあ有効なこと、そして、信憑性の薄い意見や解釈まで生まれてくる。試験というものが、どうにも曖昧でつかみ所のないのもこれがためである。 わたしたちは、試験を受けることを決めた時点から、いや、正確に言えば試験を受けようと決める時から、それこそ無数の試験情報に囲まれることとなる。試験情報というのは、かいつまんで言えば、「〜したらよい」という方法論のことである。例えば、△△社の○○というテキスト(問題集・参考書)はよい・必読であるとか、××は早めにやって済ませて方がよい、などである。 試験情報の問題点はその多さである。昨今のネット化された状況を考えると、ほんとうにたくさんの情報の中から取捨選択しなければならない。ほんの一昔前は、実際の受験者や合格者から直に聞くか、または願書や合格体験記その他の出版物からしか試験情報が得られなかったことからすれば、それこそ情報量は膨大となった。 出版物は一応の商業的制約があるため劣悪なものは出版されないし編集の手も入る分、情報の正確性は担保されている可能性は高い。しかし情報とは元々が玉石混交であり、増えたら増えた分だけ下手をつかむ可能性は高くなる。どこまで情報を信用するかは自分の目で確かめて決めざるを得ず、検証する手間が大いにかかることになる。 また、試験情報には、相性と適正がある。例えば、時間が自由に使える学生の勉強と時間が制限のある社会人のそれとはやはり異ならざるを得ない。試験というのは皆が合格という1つの目標を目指すけれども、試験とは意外に個人的なものなのである。合格までの過程には、個人の性格が実によく現われる。最初からバリバリやる人もいれば、本試験が近くなってやる気が燃え出すスロースターターの人もいる。ある勉強方法がよくても、その人の性格によってはまったく合わないこともあるのである。情報そのものの検証のほか、現下の状況や条件にしっくり当てはまる情報を求める必要もあるわけである。 加えて、前歴や前提知識の有無を見逃してはならない。例えば、法学部卒の法律の勉強と国文学科卒の人のそれとは、序盤や中盤の進め方は大きく異なってくる。情報の真偽というのは、やはり、同じような能力・知識で似かよった学習環境同士で確かめて見なければ、ほんとうの良し悪しはわからないものである。(くじ引き実験など) 考えてみれば、自分に合う「したらよい」という試験情報を正しく集め検証し、そして役立たせるのは試験勉強並みに難しく、加えて何より時間のロスも多い。情報に費やした時を勉強に充てていれば、と臍を噛んでいる不合格者も数多くいるのは想像に難くない。実際、たくさんいるだろう。 では、わたしたちはどうしたらいいのだろうか。まず、「したらよい」という試験情報を過信せず、多くをめないことである。最終的に情報というのは自分で検証するしかない。多ければ多いほど途方に暮れる。情報は多くても困るのだ。 そして、もう片方の「しなくてもよいこと」から逆に考えてみる。わたしたちはあまりの「したらよい」情報の多さに目を奪われているが、しなくてもよいことが明らかになれば、自然としたらよいことが浮かび上がってくることを忘れている。やらなくてよいことを求めるのも解決への有効な手立てなのである。 独学ではかなり早い段階で過去問を解く。それは、実力アップのためというよりもいちはやく試験の実際を掴むためである。過去問は試験の事実そのものである。過去問を見ていけば、テキストや問題集では見えてこなかった試験の凹凸が見えてくる。出題者も人の子。どうしたって好悪がある。ある部分はよく出るが、ある部分は全く出ないか、そう出ない。10年に1度くらいの出題ならしなくてよいのは素人に毛の生えた頃の我々でもわかる。過去問は試験問題を知るためというよりも、何をしなくてよいかを知るために行うものなのでもある。 逆説が事を1番よく説明できることは多々ある。「きらい」というのは本心から「すき」であり、(いい人)は内心(どうでもいい人)なのである。するべきことを知る。やりたいことを知る。それは大事だが見つけ難いものである。「30にして立つ」と言うが、立つには30年かかると言えるのだ。嫌いなことを知れば、好きなこともよくわかる。自身がやらなくてよいことを知る。自分がしなくてもよいことを知る。だから、生でやるべきことがわかる。古人は汝自身を知れといった。 |
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