統計的副産物

 試験は、合格という限られた席を巡って行われる。このため、我々は自分の順位や実力の度合い、ほかの受験生との立ち居地が気になってくるものである。このニーズを満たすものとして模試がある。模試を受けると、点数、得点状況、受験者数といった基礎的なデータとともに、偏差値、順位、合格判定などが記された試験結果が送られてくる。さて、この結果を、我々はどう取り扱ったらよいのだろうか。

 結論から言うと、何もしない、である。基本的に模試の結果はあてにならない。好き好きにすればよいというのが結論だ。だから、A判定であっても油断はしない、C判定ならもっとがんばる、D・E判定なら気にしない。こうした判定に一喜一憂する前に、我々は模試の復習と分析を済ませるべきなのである。

 模試があてにならないのは相応の理由がある。まず、母集団の問題がある。模試を受けた人が実力者ばかりならどうしたって成績は悪くなってしまう。同様に、あまりできのよくない人たちばかりなら、同じ実力でも判定が異なってくる。ちなみに、わたしが高校生のころ、学校が強制する大学受験の模試を受けたが、偏差値は70を超えていた。わたしの高校はレベルから言うと中の下、下のちょい上のであった。そうした高校が受けさせる模試なのだから模試のレベルも低い。母集団如何によって、判定も順位もいくらでも変わってくるわけである。

 次に模試を考える上で重要なのは、実施時期である。本試験が近い模試ほど受験者数も伸び、正確な実力の立ち居地がわかる。逆に、本試験より何ヶ月も離れれば離れるほど、受ける人は少なく正確なところがわからない。受ける人の実力の完成度もそうであろう。本試験が近いなら実力も完成に近づいた人が多くより正確な順位が測れるが、遠ければ遠いほど実力未分化の人が多いから、ほんとのところがわからない。

 そして、忘れがちな要素であるが、模試の値段も重要な要素である。模試の受験料が高いと人は受けなくなる。よっぽどの実力者・できる意識のある人しか受けないために、ハイレベルの戦いとなる。ちなみに、日本人の英語力が落ちているといわれているが、これも値段の問題がある。TOEIC等世界的に行われている英語の試験で、日本人受験者の平均点が落ちているわけだが、先のTOEICの受験料は1万数千円である。日本人でもいい値段だが払えないわけではない。アルバイトをすれば大学生でも払えるだろう。だから、日本人受験者にはそれこそ、本当に英語ができる人からそんなにできないお試し受験組まで、多数多様の日本人が参加するわけである。

 しかし、その他の国々の人にとってTOEICの試験料は、それこそ月給数か月分の値段となる人も少なくないのである。日本人だって、受験料が5万円超となれば気軽には受けられず、本当にできる人しか受けないだろう。なら、平均点も上がることになる。このように値段によっても、試験の結果というのは大きく左右されるのである。

 まだまだ、模試のあてにならない理由はある。受験生の実力は、基本的に本試験間近になって完成するものである。本当なら、そこで模試をやるべきなのだが、模試というのは本試験1ヶ月前あたりが最終回となる。この1ヶ月間の追い込みで、実力がぐいぐい伸びる人はたくさんいるし、スロースターターといわれる超短期合格者もいる。試験の合否はこの1ヶ月で大きく影響されるのである。また、模試の問題が本試験とどのくらい被っているのかも大きな問題だ。本試験と全く異なる問題で、実力の正確なところは図りえない。本試験と似ても似つかない模試は結構ある。

 長々と、模試の悪口と聞こえかねない事を言ってきたが、だからといって、模試を受けるなというのでは決してない。模試はお金と時間が許す限り受けるべきである。わたしは、受ける。強く言いたいのは、統計的副産物への過度の気にしいである。それら数字や記号はほとんど役に立たない事を言いたかったのである。A判定でも以降の勉強如何では落ちるし、Eでもがんばれば受かる。そんな例は枚挙に暇がない。ならば、気にするだけ時間と精神の無駄なだけなのである。

 A判定なら本試験にて無条件で5点プラスされるお得な特典があれば別だが、そんなことはない。合格を決めるのは不確かな模試の成績や判定ではなく、確かな理解と確実な記憶、整理された知識である。これら以外で合格を決める要素はない。ならば、我々はそれを充実化するだけである。判定や順位が我々を合格に誘うのではない。況や合否をや。例えば、健康診断の基準値内や外が我々の健康を決めるわけではない。況や生死をや。数字や記号の判定は一見わかりやすいが、真実を語っていないことは多々ある。要は、そこから自分がどうするかなのである。さらに言えば、自分のみが何かをするのである。

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