大きな努力で小さな成果

 わたしたちが求めるべきは、大きな努力で小さな成果を得ることである。逆ではない。

 小さな努力で大きな成果を求めない。理由は単純である。小で大を得るのは難しいからである。確かに、小で大を得られるのはある事にはある。慣用句やことわざもある。例えば、海老で鯛を釣る、窮鼠猫を噛むなど。歴史上の出来事にも小が大を破った例がある。例えば、信長の桶狭間の戦い、義経の鵯越の奇襲などである。信長は500人で2万人の軍勢を敗走せしめた。義経も数百の騎馬で以って平家の縦深陣地を側面強襲し勝利を挙げた。小が大を、弱が強を破った例はある事にはあるのである。

 しかしながら、それらはめったにないからこそ、現在までに語られているのである。そんなにないから慣用句やことわざとなり、歴史上の出来事になったのである。もし信長が桶狭間で負けていたら、桶狭間の「お」の字も歴史の記録に追加されなかっただろう。小が大に負けるのは当たり前だからである。当時の人たちでさえ3日後には忘れる、ごく穏当な勝敗であったろう。これまでに数百数千の小競り合いや戦さ・戦争があったが、小が大を破った事例数を比較してみれば、いかに小が大を破ることがなかったか、ごく例外の事かわかる。追い詰められてもネズミはネコに負ける。わたしたちは、めったにないからそう言われるようになった背景を見落としてはならない。

 最小の費用で最大の利益をとよく言われる。しかしそれも、めったにはないか、そう長くは続かない。よっぽどの特殊な事情、例えば、がちがちの特許権で守っている、認可や許可がある、ブランドがあるといった相当の理由がない限り、最少費用・最大利益は続かない。来期を待たず来月からすぐさま同業他社が進出して、費用と利益の関係は標準化され平均的なものにするであろう。大きな費用をかけても少ない利益しか上がらないのが通常なのである。これも逆で「ない」からこそ、そんなことが言われ語られ議論されるのである。もし、小で大が求め得ることが普通の事ならば、わたしたちの社会は前述したことわざの類を持たなかったであろう。例外で全部を量るような真似をしてはいけないのである。

 逆に考えてみれば、上記のことわざや慣用句、言の類は、「弱」や「小」に向けられたものというよりも、「強」や「大」の方に向けられた警句とも言えるのである。ネコにネズミはときどき噛み付くから注意するように、と言うものなのである。日本歴史が続く限り永遠の敗者となった今川さんに(めったにないけど、時々奇襲をしてくる人も居るよ)と注意するものなのである。万々に儲かっている企業に新規参入がすぐにあるから内部留保を高め高金利の負債は整理し高まった信用を以って低金利の安定資本を獲得しておくよう忠告するためのものなのである。例外をそんな風に考えておけば過ちは少なかろう。

 勉強においても例外の混同が発生しやすい。わたしたちは、少ない労力と時間で何がしの成果を得ようとしがちである。しかし、そうした事はめったに起きない。たとえ、少ない勉強で合格できるような画期的な方法が発見されたとしても、通用するのはもって2年、2回分の試験のみであろう。前年度比3倍4倍の急激な合格者が出始めたなら、これはおかしいと出題者側も対策を取ってくるだろう。試験問題のみならず試験制度をも変えてでも対抗しようとするであろう。小で大を得るのは、そういうものなのである。方法はめったになく、あっても長続きしない。

 わたしたちが、勉強でやきもきしてイライラするのは、うまくいかないときである。進まないときである。しかし、少ない時間・短い期間で終えようとしてはいないだろうか。少ない回数・僅かな労力でできるように思い込んでいないだろうか。1回で済ませようとしてないだろうか。少ない努力で多くを得ようとしてはいないだろうか。これまで見てきたように、そうした事はめったにない。「ない」ものに期待するからこそ、気持ちは空回りを続けるのである。いやになってくるのである。

 わたしたちは、常識に没する覚悟を決めるべきであろう。めったに起きないことはやらない。期待もしない。たくさんやれば、少しはうまく行く。下手でもたくさんやればうまくなる。できるようになる。100回紙に書けば、口に出せば憶える。100回読めばわかるし100回解けば解けるようになる。勉強の現実はそんな単純なものである。1回でできるのは凄いことではある。しかし、だからといってどうだというのだろう。1回も100回も、「できる」には変わらない。もっといえば、試行数の多い100回のほうが今後も安定してできるだろう。大きな努力があれば確実に小を得ることはできる。小学生でもわかる道理である。わたしたちは凄い例外は脇に置いといて、ありふれた常識こそあてにするのである。

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