お手本方式

 新しく何かをするときは、お手本があると手ッ取り早い。手本のある時点で達成可能なのが証明済みである。何より答えが出ているわけだから、人智が及ぶかわからぬ状態からあれこれ試し試しやってくよりもやり易いのは言うまでもない。そしてゴールが明白で、しかも当分は一本道である。お手本に近づきさえすればよいのだから方向に悩まないで済む。気楽である。取り敢えずお手本があれば、何が良くて悪いのかわからないゼロから始めるのに比べたら、遥かにやり易く・着手し易いのである。

 しかしながら、お手本方式には3つの盲点が考えられる。ひとつは、お手本の質である。質の問題は単純ではあるがとても大事である。お手本がダメなら結果も同様ダメになるからである。ダメ手本からいい結果が生まれることは少ない。瓢箪から独楽は出ない。反面教師の形でダメ手本が役立つこともあるけれど、(しまった!)と思うために手本を選ぶのはどうだろう。やはり穏当にダメである。

 ふたつ目の盲点は、なまじお手本があるために伸び悩む問題である。お手本が成長の限界と障害となりかねないのである。当分先の話ではあるが、いつしかお手本のレベルに到達する日はやってくる。しかし得てして、お手本に到達するとそれ以上の気が薄れていくものである。お手本を超えようとするなら、お手本を一旦否定しなければならない。しかしそうすると、やってきた事をも一度は否定しなければならないわけで、心理的な抵抗が大きくなかなかに難しい。このため、自ら手本を超えんとする意欲に欠けるきらいがある。お手本のあることが却って伸びる邪魔となるのである。

 そして盲点のみっつ目だがこれが致命的に大きい。心理の問題である。われわれは低きに流れる傾向があり、お手本が安直なリスク回避となってしまうのである。お手本というシステムは、お手本を目標に据えそこに達せんとする過程に利がある。しかし、お手本を選ぶ際は、できそうで、簡単そうで、やりやすそうなお手本を選びがちになるのである。途中で遭遇する障害や困難を克服していく過程に、自分の持つ才能や能力が鍛えられる機会があるのに、安易なお手本の選択が力を伸ばす機会を失いかねないのである。

 高い目標を忌避し手ごろな手本で代用する心理の裏を返してみれば、実際の自分の力と向き合うのを避ける気持ちがあるように思う。レベルの高いお手本を据えれば己の卑小さとどうしても対面せねばならない。だからこそ、安易で近いお手本に飛びついて、現実を覆い隠してしまうのである。最もつまらない結果を生むのは、「これでいいなら、いいんだろう」とか、「これで通用しているなら、いいんだろう」、「こんな風にやっておけば、いいみたい」といった安直で幼稚なお手本選びである。まさに子供だましで、真に執るべき努力を先送りするのみ。要らぬ手間と時間を費やす結果となろう。

 さて、これまで見てきたお手本の盲点は、何もお手本方式を否定したり腐したりするものではない。また、青年の主張のように、高らかに目標と志を持てといいたいわけでもない。余りに高い目標や理想は得てして破綻する目標設定の問題が含まれてくるし、崇高で遠くの目標には実際としてやる気が向かない。やはり、自身の力の及ぶ範囲で身近なお手本を元に段階的に進めるのが現実的である。

 お手本を元に物事を進める際は、調べ試すべきことが2つあるように思う。ひとつは、最初のお手本を選ぶ際に、最も適したものを選んでいるかどうかである。基本的に、力がないからこそお手本が必要になるわけである。自身の力不足を踏まえれば、手本の判断に正しきものが下されたかを質すには価値がある。早いうちに誤りを正すのが賢明である。

 次いで自ら選んだお手本を目指す中途で、自分が目指すものの価値を再確認してみることである。得てしてわれわれは、予想される困難を見たくないために大切なものを見落とし、それなりの結果を手っ取り早く得たいがために本当はどうでもいい事をありがたがるものである。また、当初は良かれと思ったことが、やっていく間に力が付いて化けの皮が外れ、目指していたものがつまらなく思うときがあろう。ならば、お手本を修正するなり挿げ替えるなりして、自分の目標をより新たに、より高きものに質す必要がある。

 われわれには、よきお手本を求める姿勢が常に必要である。それが勉強である。お手本の価値をひとつひとつ分解して吟味し、本当に自分にとって価値があって信じるに足るものをお手本にしていかねばならない。それが、自身の現状とどんなに遠く隔たれたものであっても、である。価値のないことに一生懸命になっても仕方がない。真に大切で必要なことには安易な妥協をしない。これが、本当の妥協がある生き方と思う。

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