スキル制

 人の上手なこと・良いところが長所である。短所は逆で、悪いところや下手なことである。誰しも持ち合わせている長所と短所を、こんな風にいうこともできる。長所とはその人のやるべきこと・そうすべき役割である、と。明るい人は明るく振舞うのがこの世での役割であり、野球の上手な人は野球をすべきなのである。故に、上手いのである。

 逆の短所はやらなくてよいこと、避けなければならないことを現す。口下手な人はセールスの仕事で神経をすり減らすより、財務や経理、研究など、洞察力をもとに粘り強く数を追う作業が適正なのである。逆に、口上手で社交的な人がそうした仕事に就くと悲惨なことになるわけである。長・短所は単に人を形容するものではなくて、長所を行い、短所はいじらずという生き方をも示すのである。

 しかし、話が試験となるとそうもいかなくなる。上手なことだけをやっても合格できない。1〜2問なら捨て問にもできようが、1章・1科目となると困難である。であるから、苦手を何とかして克服しなければならなくなる。しかし、できないからこそ苦手なのであって、できないものをどうしたらできるようになるのか、というわけである。

 「スキル制」という考え方が参考になる。(スキル制とは・・・)と定義や背景を述べると長くなるのでここでははしょる。簡単にいえば、スキル制とは「適切な難易度が、人を育てる」という考え方である。つまり、50の力の人は、60〜70程度の少し難しい勉強をすれば伸びていくわけである。逆に、50の人が20や30の低レベルのことをしても伸びない。簡単すぎて適切な難易度ではないからである。同様に、50の人が90・100の難し過ぎることをしても伸びない。適切な難易度ではないからである。

 スキル制の利点は、まず、徒労少なく力を伸ばせる点にある。50の人が100のことをいくら行っても、実力は少しも付かず消耗に消耗を重ねることとなる。意外な数の人が、自他のレベル差を考えずにただがんばる人がいる。スキル制からすれば暴挙である。50の人は60弱のことをやるべきであり、この適切な難易度の分だけ、無駄な時間や労力を払わずとも済むわけである。

 次の利点は、やっていることに実感が持てるという点である。実感の有無は、やる気の維持の面で顕著に現われる。あまりにレベルの差があると、砂を噛む虚無感を味わう。それが、毎日続けばどんな気丈な人であっても勉強が嫌になってしまうだろう。もちろん、やる気などあっという間にどこかにいく。この点、スキル制を踏まえれば、自分の力に見合ったことに取り組むこととなるので、何かしらできた感・着手感、できそうな予感を体感できる。何となく、どうすればいいのか、どうしていけばいいのか、手段や手当、やり方や方法が見えてくるわけである。やっている実感がある分、勉強も続けることができるだろう。ときに楽しみさえ見え始める。

 試験勉強においては、全くダメなこと、皆目わからないこと、取り掛かりさえわからないことを勉強しなければならなくなる。苦手だからといって逃げることもできないときは、スキル制の考えをもとに勉強を組み直してみることである。自分の力や知識を勘定してみて、試験用のテキストや問題集に到達しているかを確かめてみる。テキストを読むと目がぱちくりして、外国語の本を読んでいるような感じがしたら、力は全く及んでいない。10の力しかない人が50〜70のことをしようとしているのである。

 10の力しかないのに50のことをやってもやる気は干上がるのみで、強行すれば試験勉強は挫折に1歩近づくこととなる。人はそれほど徒労に耐えられるものではない。そこで、スキル制なのである。10の力しかないのであれば試験用の教材からは撤退して、難易度15から20、高くても30くらいのことをすべきなのである。テキスト以外にも、世にはたくさんの入門書や解説書がある。上手くやるのが1番速い。そうした本をもとに地力をつけてから、テキストに臨んでも全く遅くはない。下手にやるが1番遅いのである。

 スキル制が優れているのは、それ自体が希望に満ちた考えである点と、そして、現実的な志向を求める点である。希望というのはつまり、どれほど劣って少ない力でも、例えば1の力の人であっても、適切な難易度のことからやっていけば、いつしか20・30に、そして、50に、最後には100のことを成し遂げられると考えるからである。現実的というのは、まさに、自己についての正しい理解である。実際に10の力がないのに50の振りをしても、スキル制の元では意味がない。10の人は冷静に自分が10の人であることを認めた上で、10の人なりに15のことをやっていけばいいのである。我が身を衒ってみても仕方がないことを、そして、希望を持たねばならないことをスキル制は我々に教えるのである。

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