「若さ」は有利なのか

 資格試験というのは、基本的には実務試験である。だから、試験問題には、学問的なことや抽象的なことは問われない。たとえ問われるにしても、何らかの実務の裏づけがあってこそのことである。

 例えば、中学で勉強したオームの法則は、電気関係の実務につく人にとっては大事な法則であり、電気がらみの試験には問われることとなる。何かしらの法理論が問われたり、数学風の公式が問われたりするときは、それらが実務に密接な関係があるときで、逆に言えば、実務や実際の仕事に関係のない事柄は出題されないわけである。

 であるから、資格試験というのは、社会人や年齢を重ね社会経験を積んできた人の方が有利なはずである。学生に比べれば、実際の社会との兼ね合いの年数が多い分、実務の面で種々様々な蓄積があり、実務試験たる資格試験では、それらの経験が有利に運ぶはずなのである。

 しかし、実際の合格率や年代・職業別の合格データを見てみると、合格者の列には10代・20代が多数を占めており、そして、学生の比重が高い。試験によれば合格者の大半が若い学生で占められている試験もある。しかし、それはどうしてだろうか。なぜ、実務の裏づけが相対的に少ない学生や若い世代の合格率が高いのであろうか。

 理由のひとつとしては、記憶力の問題がある。試験というのは、どうしても記憶の量で決まる部分が少なくない。だから、記憶力のある若い人の方が試験では有利である、というわけである。しかし、若ければ記憶力があるわけでもない。わたしたちにも間違いなく若いときがあったわけで、じゃあ、その若い時分に抜群の記憶力があったであろうか。すらすらと何かを憶えていただろうか。そうでもなかった、というのが実感ではなかろうか。

 確かに、若いときはたくさんのことを学んで身に付けていかねばならないがゆえに、生物的な高い記憶力が備わっているにせよ、記憶力がよかったと言い切れる人は何人いるだろうか。「昔は記憶力がよかった」という人は、今でもすぐに人の名前や特徴を覚える人であるし、現状で覚えの悪い人はかつても悪かったであろう。記憶力のみをもって、若い人=試験に有利という理由を構成しているとは言えないように思う。

 次に、若い人たちが試験に有利なのは、体力とも言われる。確かに一理はありそうである。というのも、試験勉強というのも体力勝負だからである。机の前に数時間もじっとして居るのも体力の為せる業であるし、仕事・家業・家事・育児をこなした後での勉強というのも、体力が求められる。憶えるまで続ける粘りやわからない事態を耐え忍ぶのも体力あっての話である。

 しかしながら、体力があれば試験は有利に運ぶかもしれないが、邪魔をするのも事実である。体力があるから若い方が有利だという人は、体力というものがまるで自分の自由になるものに見えているが、そうではなかろう。(そうではなかったはずである。)有り余る体力を勉強に向かわせるのは、かなりの訓練と忍耐を必要とするものであって、子供を見ればわかるように、じっとしてひとつのことをやるというのは、エネルギーの塊にとっては苦痛の作業なのである。

 それでは、なぜ、若い人たちの方が試験には有利なのだろうか。若い世代が有利なのは、能力的な理由ではなく、自由になる時間がたくさんあるその学習環境なのである。記憶力や体力は、ひとつの要因ではあれ、決定的なものではないのは先に見てきたとおりである。合否を分ける差というのは、やはり、時間の有無であるかと考える。自由になる時間が多いというのは、勉強する時間が増えることでもある。そして、勉強時間が増えれば、勉強の数と量を稼ぐことができる。

 この、数と量の増加こそ、圧倒的に試験を有利にさせる最大の理由である。合否を分けるのは、能力的、体力的な問題ではなくて、数と量の問題なのである。合格した人と不合格となった人とは、まず、数と量が違う。読んだ量・目を通した回数が違うし、演習した問題数が違う。復習した回数も、見直した語句・用語も、解いた問題の数、繰り返した問題集の冊数、書き込み量、テキストのページ、メモした量などなど、大きく違うのである。

 敗因を失われた記憶力や体力に求めるのは、事実を突いている反面、自分の勉強量の少なさを隠すベールにもなりかねない。合否を分けるのは、第一に数と量であることを念頭に置くべきである。再度言うが、能力的、資質的には問題はないのである。若さには若さの問題がある。数と量の確保こそが試験の要であることを再確認して、各自の試験勉強を見直して欲しい。若いから合格するのではなく、若いときは時間があって勉強の数と量を確保できるからである。数と量は、才能や能力、方法の差異、そして、経験の壁を越える。数と量こそが、世代を超えて人を育てるのである。

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