スキル制とレベル制

 突然のゲームの話で恐縮である。コンピューターゲームの人気ジャンルにRPG(ロールプレイングゲーム)がある。その名の通り登場人物の役割を追体験して行くゲームである。物語の舞台はゲームによって異なる。中世ヨーロッパや指輪物語風であったり、近未来都市・宇宙であったりと様々である。

 しかし、根底にある構成は変わらない。その構成とは、主人公が仲間と一緒に敵と戦って成長し、数ある謎を解き、そして、困難に打ち勝っていくうちに話が進んで行って、最後は世界に平和をもたらすため、忠臣蔵で言う吉良上野介を倒す筋書きである。年配の方には、かつての小説の1ジャンルであったビルドゥングスロマンに、童話の桃太郎が合わさったものを思い起こしてくださればと思う。

 RPGというジャンルが、どうして人気があるかというと、その成長システムにある。実に現実感があって感情移入しやすく、そして楽しめるのである。成長システムは大別して、レベル制とスキル制に分けることができる。

 レベル制とは、「人は、数・量によって成長する」という考えをベースに置いた成長システムである。レベル制のゲームでは、敵(モンスターともいう。たとえば、鬼やぬりかべなど)の強弱に応じて、あらかじめ点数が設定されている。主人公とその仲間は、これらの敵を倒して経験値という数字を集め、ある一定の数が溜まればレベルアップする。

 ゲームにおいては、主人公たちは経験値を求めて、たくさんの敵と闘うこととなる。敵を倒して獲得する点数は、弱い敵は低く強い敵は高い。レベルが低いと強い敵とは戦えないので、弱い敵と何度も何回も戦うことになる。それはもう、何十匹何百匹何千匹という世界である。まさに、「数・量が人を育てる」を実地で行くのである。

 さて、一方のスキル制はどういうものかというと、「熟達することが人を育てる」考えが根底にある。ゲーム上ではレベル制とは違い、経験値という高度に抽象的な数字は出てこない。スキル制のゲームシステムにおいて登場人物は、現状より少し難しいことに挑戦したときに成長するように設定されている。この、少し難しいというのがポイントで、あまりに難易度が高くても低くてもいけないのである。

 例えば、「ナイフ」のスキルがあるとする。全く刃物を手にしたことのない人が獲物を仕留めようとしても、まずうまくいかない。やった感も発見もゼロであろうから、難易度の高い作業は成長に寄与しないとみなすのである。逆に、鉛筆削りのような簡単な作業ばかりしてもスキルはあがらないようになっている。やった感も発見もゼロであろうからである。技術・技能は、現状のレベルより少し難しいことに取り組むことで徐々に磨かれて行く。「熟練の過程は、人を育てる」を実地にゲームシステム化したのがスキル制であった。

 これら、ゲーム上の概念である「レベル制」と「スキル制」は、試験勉強においても意識しておくべき概念である。試験勉強においては、両方の考え方をもとにした作業が必要となるからである。

 レベル制の考え方は、試験勉強において欠かすことのできない過去問演習に端的に現われている。何度も何回も、10年分を10回転と言われるほどに繰り返す過程は、何度も何回も敵を倒して経験値を貯める過程にそっくりである。過去問演習で試験の経験値を貯めれば、よっぽど頓珍漢な出題でない限り、点数を取り続けることのできる力を身に付けることができる。まさに、数と量は力になるのである。

 一方のスキル制の視点は実力向上の大事な部分を占める。今日、5ページしたのであれば、3日後は7ページできるように、1週間後には10ページ、1ヵ月後には20,30ページはできるようになろうと改善を図ることが大切である。毎日毎日5ページのみしかやらないのは、相当の理由があれば別であるが、単にそれだけでは熟達したことにはならない。簡単なことをいくら続けても、人は成長しないのがスキル制の特徴である。

 また、スキル制では、自分に適したレベルの作業を取らねばならない。もし、全く手に負えない難しい章や単元に遭遇しているなら、前提となるものをしっかり読み込み、用語や語句を丹念におさえるなど、自分の実力に見合ったアプローチから始めなければならない。極度に難しいものに挑戦しても、ただ疲れるばかりで、何もやった感がないものである。俗に砂を噛むというが、勉強後に砂漠の心情ではやはり、何かが身に付いたとは言えまい。ちょっぴり難しいことは達成感もあるし、やったという感じもある。こうした感覚が技術を磨き知識を付ける原動力になるのは言うまでもない。うまくできている。

 勉強というものは、合理的かつ理性的で、蛮勇でも愚直でもない方法が求められている。スキル制とレベル制の考え方は、明確で試験勉強を方向性のあるものにするかと思う。やれば必ずできる。問題は「どうやるか」なのである。

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