予感や予兆はあるものだ

 機械は突然壊れない。大概は壊れる前兆がある。ウィーンと異音が聞こえたり、ガタガタと聞いたことのない物音がしたりする。スイッチを入れてもなかなか効かなかったり、動き出すのに時間がかかるようになったりする。何かすえたような異臭や焦げ臭いが発生するときもある。機械がこうした調子になると、大概は数ヶ月のうちに壊れる。

 調子の悪くなった機械が壊れるのは運・不運の問題で考えるよりも、くじ引きをしているものと考えたほうがわかりやすい。つまり、1回ごとに、「もう壊れる」くじと「まだ使える」くじを抽選しているというわけである。故障は可能性の問題であり、抽選の残り回数分だけ動くものと踏んでおけば、いたずらに故障に泣かされることはない。壊れるものというのは、やはり、壊れるべくして壊れるのである。全く動かなくなっても(やはり壊れたか)と確信に似た思いを抱けるようになっておれば、故障自体に惑わされることもない。

 試験勉強においても、よく似た現象が起きる。それは、苦手なところや弱点、上手な対策が取れなかったもの、難しい論点・単元ほど、本試験で遭遇するという現象である。出たらまずいなと思うものほど本試験で対面する。(やはり出たか)と試験中に慨嘆して、(やはりできなかった)と試験後に後悔して、そして、数ヵ月先の発表後に(やはり落ちたか)と相なるわけである。

 とはいえ、(やはり云々)と苦虫を噛むのは、何もあなたのみではない。よくよく考えてみれば、あなたにとってできないことは他の受験生にとってもできない可能性が高い。なぜなら、平均的な人間は平均的にできないからである。平均的な我々ができない問題というのは、他の受験生も平均的にできないものと考えるのが穏当だろう。本試験とは一種の選別の過程であるから、出題者は平均的にできそうにない問題・平均的に間違えてくれそうな問題に焦点を絞ってピンポイントで出題してくる。このように、できないものは実際にできないものになるのである。

 たとえ、その試験では運良く解答できても、それは可能性と抽選の問題である。次の試験で、次々の試験で、いつの日か出て欲しくないものに遭遇し臍を噛むことになるだろう。試験というものは、受かるべくして受かり、落ちるべくして落ちる。試験勉強においては、(出題されたらまずい)(出て欲しくない)(たぶんできない)(苦手!)と肌に来ていることが、大失点と不合格の前兆なのである。出そうな予感やできなさそうな予兆を甘く見てはいけない。こうしたもやもや感やざわめきに意を払い失点やタイムロスを防ごうとするだけでも、最終的な得失点は大きく異なってくる。

 失点の予兆や予感を掴むには、まず指しあたって、素直さと率直さが必要となる。いくらカン働きが優れていても、それを意識に汲み取らない限り、効を奏さない。へんだなあ、おかしいなあと心がうずく微妙な感じは、素直でないと意識の外にすぐに放り出されるか、代替物である(ま、いいか)と安易な楽天思考に取って代わられてしまう。また、思い込みも予兆と予感を妨げる。自己暗示風に、できる!できるはず!と思い込むのも自信構築の面で結構であるが、目が大いに曇ることも憶えておかねばならない。

 予兆や予感が示すものを意識の中に残したとして、それだけでは終わらない。示すものをきちんと受け取る勇気が必要となる。敢えて勇気といっているのは、そうした予兆や予感の先には失敗や困難が待ち構えているからである。もしかしたら、長々とした定義の文章をいくつもきちんと正確に憶えなければならないだろうし、脂汗を流しながら表やリストの内容や各種統計数字を憶えていかねばならないだろう。どれも面倒くささが予定されている。

 人は誰でも嫌を避けるが故に、(ま、大丈夫だろう)と体よく過小評価するものである。試験においても、困難を前にして逃げない勇気が必要となるのである。我々は、少なくとも、我々自身にとって傍観者であってはならない。

 素直さと率直さ、そして、勇気を用意できて漸く、知恵と知識の出番である。これまでうまくいった方法でできないか、従来の方法では何が良くないのか、もっといいやり方・方法はないかを探し求めたり、大きく考えたり小さく考えたり、総合化したり細分化したりして目の前の予兆や予感に形づけ、その対応と対策を考えて行く。

 感じたことを素直に受け止めること、少し勇気を出して困難に立ち向かうこと、知恵と知識を引っ張り出してくること、これらは現に少なからず有しているものである。どこぞ遠い世界にあるものではない。いくら便利な道具があっても、その存在と在りかを忘れてしまえば用いることはできない。古人は汝自身を知れといった。逆に言えば、自身には、知るに値するものがあるのである。

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