精神力は有限です

 「お受験」の時期が近づくと、ねじり鉢巻をして夜遅くまで試験勉強に励む子供の姿がテレビに映る。そして、熱血講師ががんばれと輪をかけて子供たちを励ます。

 小さいうちからあんなに勉強をさせなくていいのにと思う人もいるだろうが、よくよく考えてみれば、私立一貫校に入るというのは、そのままエスカレーターで高校・大学に行くわけであるから、お受験とは高校受験と大学受験が一緒くたになったものである。

 まとめてやるのだから、あれぐらいがんばって当然ともいえる。基本的に人は損なことはしない。たとえ、子供であっても。彼らは自分たちのしていることが割に合ってトクなことを知っているが故に、あそこまでがんばるのである。また、勉強以外にこれといって特別にすることもないし、勉学にエネルギーを向けるのも悪くはない。あそこまでがんばるのも、悪くはないのである。

 しかしながら、我々の大半は、彼らのようには勉強はできない。いや、正確にいえば、頑張れない。頑張るということが、一時期もてはやされたことがあったが、最近になって漸く沈静してきたように思う。頑張ることも一長一短、時と場合と条件があることが判明しだしたわけである。先ほど、お受験を引き合いに出したのは、お受験が頑張るに足る要件を満たしていることを言いたかったのである。

 試験勉強には、3つの段階があると思われる。まず、ひとつめは、「完全合格ライン」とでいうような、試験の実力のみならずメンタル面も完全に仕上がっている状態である。本人にとっては合格・不合格などもう眼中になく、これまで自分の培ってきたものを本試験にぶつけるのみという状態になっている。こうした悟った状態にまで勉強が到れば、まず合格する。

 次の段階には、「準合格ライン」ともいう状態である。不安なところもある、弱点もある、やり足りないところもあるけれども、まあいけるのではないか、何とかなるのではないかと思っている状態である。この状態はピンからキリまであって、穏当に行けば合格する人とぎりぎりで危うい人がいる。最後の3つ目の段階は、「ダメ」である。その名の通り、テキストの読み込みが少ない、演習数が足りない、重要語句や頻出事項をきちんとおさえていないなど、受けてもまずダメであろうという状態である。我々はこの3つの段階のうち何処を目指すべきかというと、2番目・準合格ラインの中の上あたりである。

 我々は、合格する可能性の最も高い完全合格ラインを目指さないのである。というのも、完全合格状態になるには、時と場合と条件の揃った、頑張れる人しか到達できないからである。たとえば、仕事がヒマな時期に入った人とか家事・育児等がひと段落ついた人などである。通常、仕事や家事・育児等を抱えていれば、勉強のみには頑張れないものである。とはいえ、何かを抱えてでは、完全合格状態になれないかといえばそうでもない。精神力で頑張れば到達することは可能である。

 しかしながら、我々の精神力は有限であることを忘れてはいけない。精神力とは10枚つづりの食券の如く、使えば無くなっていくものなのである。逆に言うなら、たとえ精神力が無限ではあったとしても、その力を多用すると身体や心の方がついて行かなくなるから、結果的に有限になってしまうのである。

 我々は試験勉強にがんばってはいるが、本当に大事なのは合格後のことである。試験は試験でスタート地点でしかなく、しかも、やるべきことをやれば誰しも合格する。しかし、合格後は誰しもが成功するわけではない。ならば、精神力は合格後の本当に頑張らねばならないときに使うべきである。我々には、精神力以外の様々の力がある。試験勉強は精神力に頼らずとも、たとえば、知の力や体の力を用いることだってできる。なぜか隣で寝るよくは知らない人の力を借りることだってできるだろう。

 力を出し惜しみするなと言われるが、その通りではある。しかし、「常に」ではない。人生には、絶対に凌がねばならない危機のときと、機会を掴まねばならないチャンスのときがある。これまでの人生を振り返ってみれば、当時はわからなかったけれども、今では(あのとき)がわかるものである。我々は、今後もあるだろうそういう機会にこそ、精神力というクーポン券を最大限に用いるべきではなかろうか。

 精神力は、我々に強力なエネルギーをもたらしてくれる。しかしながら、エンジンといった内燃機関のなかった時代には、追突死や衝突死はなかった。技術の多くは、エネルギーの制御に向けられていることを忘れてはならない。精神力が勘を鈍らせ、耳目を塞ぐこともある。我々は、精神力という力に頼らなくなったときに、本当に知るべき理を見出すのではないかと思う。

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