集めたものを捨てる

 我々はものを集めるのが好きである。たとえば、食器やカップ・コップ、グラスの類はコレクションの代表である。帽子洋服靴鞄に凝り、時計宝石宝飾品や美術品骨董品の収集に精を出す。その他、ワイン等の飲み物や食べ物に至るまで何かものを集める。かくいうわたしも、幼少の折は絵本を集め物心つくと漫画を、そして、長じては本を集めていた。

 集められるものは、模様や色・かたちに応じても集められる。たとえば、ベッドカバーやシーツ、カーテンを赤色一色で揃える人や、かえるが描かれているものなら何でも集めるかえるグッズコレクターがいる。良い悪いを問わずにいうのなら、ものを集めることはとても楽しくて、探す面白さから見つける喜び、揃える満足感が得られるものである。

 とはいえ、集めたものを陳列・保管するスペースには限界がある。はちきれんばかりのかえるグッズに囲まれて生きるのは不気味である。また、ものを購う予算も有限である。いくら集めることによきものがあろうとも、集めたものを永遠に取って置くことはできない。やはり、いつの日か誰かが処分をしなくてはならなくなる。

 しかしながら、スペースや予算に都合が付く人もいる。家が広い人なら倉庫を作ることもできるし、湯水の如くお金を使える人もいる。だから、これらは集めたものを捨てる絶対的な理由にはならない。しかしながら、いくらお金と空間があろうとも、我々が新しく生きるためには集めたものを捨てねばならないのである。

 確かめておきたいのは、我々はものを集めることを否定するわけではない。集めたものは実際に必要であったし役にもち、楽しい時間を享受した。また、用途や使用以外に、存在としての価値もあった。ずらりと並んだコレクションを見て嬉しく思ったり、ぎっしり並んだハムと燻製肉を見て安心したり、美しく並んだ白磁の食器やカップにうっとりしたこともあるだろう。

 さて、ここである考えを検討したい。我々は「何かを学ぶに遅きはない」という。大方の人はこの言にYESと答えるであろう。であるなら、この言を逆にして、「我々はいつでも成長の機会を有している」ということもできる。年を取ったりとはいえ成長するのだから、学ぶことは損ではないというわけである。身体的な成長は10代で終了するが、内面的なものには、たとえば、こころや精神、魂といわれるようなものには、成長の余地があると考えられるのである。では、この内面の成長を促すものとは、いったい何であろうか。

 わたしは、もの自体に何かエネルギーというか、オーラというか、パワーというか波動というか、何か名称し難い何かがあると考える。我々は物品そのものに惹かれるだけではなくて、もの自体が有している何か的なものに魅了されて、多くの物々品々を集めてきたということはできないだろうか。

 わたしは、人がかくもものを集めるのは何故かと問われたなら、ものが有する何か的なものを吸収せんがため、と答える。昔好きだったものでも、今見れば何の感興も湧かないものはごろごろしている。同じものでも受け取り方が違ってくるのは、持ち主はそのものから何か的なエネルギーを吸収し終えたから、と考えるわけである。

 我々が使いようのない量のものを、また、履きも着もせず、めも飲みも食べもできない数のものを集めるのは、何か的なものを吸収して内面の成長に充てんがためと仮定することはできないだろうか。我々は、集めたものから少なくない影響を受けている。そして、集めたものから用途や使用以上に何かしらを受け取っている。逆に言えば、何か的なものが得られるからこそ、我々はものを集めるということができるのである。そして、集めたものから何か的なエネルギーを吸収し終えたら、処分のときが来たということができよう。

 しかしながら、我々は習慣の生き物である。何か的なものを吸収し終えたにも関わらず、集め続けるきらいがある。我々が成長するためには、次の何か的なものを得る準備をしなくてはならない。それが、捨てることなのである。我々はいつも新しく生きることはできるが、ほかではない自身の生き方が我々を古くしているのである。

 捨てることは失うことではない。ものは無くなるかも知れないが、何か的なものは残っている。我々は、これまで集めていた数々のものを思うにつけて、綿々と続いている何かを見出すであろう。集めたものを通して、当時何を求めていたのか、今何を求めているのか、そして、今後何を求めるのかがわかってくるであろう。集めたものを捨てるときに得るものは己の発見なのである。それは、新しい生き方を見つけたといえるのではないだろうか。転機は捨てることから始まる。古人は、本当に大切なことは目には見えないといった。

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