思い出のものを捨てる

 要不要の決まっているものは捨てやすい。必要・使用という合理的基準が成立しているから、何の躊躇もなく捨てることができる。しかしながら、我々の身の周りには、合理では片付かないものが山程ある。その中でも処分に難しいのが思い出のものである。

 思い出のものとは、その名の通り、想いが詰まったものである。たとえば、大切な人・親しい人からの贈り物やプレゼント、長々と愛用していた服、愛読していた本その他の物が挙げられる。そのほか、手紙や年賀状、写真といった紙のものもある。携帯やパソコンが日常的になった我々にとっては、アドレスやメールといったデータ類も思い出のものの範疇に含めることができるだろう。

 では、どうして、これら思い出の物々品々を捨てていかねばならないのであろうか。邪魔になるわけでもない。腐るわけでもなく、置いといて害があるわけでもない。本当に、どうして捨てなければならないのだろうか。まずいえることは、思い出のものは際限なく増える点が挙げられる。たとえ、収納に余裕があっても気が付けば一杯になっているものである。そして、思い出の品々は溜め込んでも仕方がない。使いもしないのだから捨てるまで永久に残ることになる。また、思い出のものをきちんと保管しているからといっても、思い出を大切にしているとは言えはしない。

 しかしながら、これら理由は、敢えてまで捨てる理由にはならない。なぜなら、巨大な収納空間があれば解決してしまうから。どこかの安アパートを倉庫代わりに借りたり、コンテナでも借りたりすれば月2万程度で解決してしまう。家に入りきらない本洋服趣味その他の物々をこのようにして保管している人は多数いる。しかし、それでも我々は、思い出のものを敢えてでも捨てていかねばならないのである。

 よく生きるために我々は、何をしたらいいかということを考えてみる。よく生きるというのは、思い出の物々品々をたくさん保管・保有しているかどうかで計られるものではないし、また、思い出の物々品々をたくさん持っていれば、「よく」が保証されるわけでもない。我々は、思い出となる機会と時間をたくさん作り出していくことがよりよく生きるものであると考える。

 得てして、思い出の詰まったダンボールが増えるほどに人生の展開は遅くなる。そして、我々は、何事においても無駄な間を取る延期がちの生き方になっていく。大量の思い出のものは、よく生きることの足かせになるが故に捨てていかねばならないである。換言すれば、思い出にかまけることは、自分の生の可能性と選択肢を開くことを怠っているということができる。思い出に拘泥することは、将来・未来の新しい思い出の機会を損ねることになるのである。古きを捨てていくからこそ、次の新しきを見つける内外の空間が生まれていくのである。

 しかし、いざ捨てる段となれば、ゴミ箱に向かう我が手が何度も止まることがあろう。捨てる動きが鈍くなることもあろう。捨てるコツは物の種類性質によるけれども、写真類は徹底的に吟味してアルバムに保存する。ネガがあればいいから余分な写真はどんどん捨てる。手紙類は読んだら捨てる。捨て難いのは返事を書いていないから。返事を書けば捨てやすくなる。今こそ不義理を改めよ。年賀状は原則直近1年以内のみを取って残りは捨てる。読み直して楽しめるのは1年分である。

 携帯やPCのアドレスやメール、動画・写真も1年以内音沙汰の無いデータは、どしどし一括して消去する。再び見ることはないが、困りそうならバックアップを取っておく。まず困らないだろうが。特に、過去お付き合いのあった人のデータは完全に消去して残さない。新しい縁が生まれないのは、未練たらしく残っているデータが原因であるといわれる。データを残しておくことは、過去の人がワインの澱のように心の中に居座っていることと同じだからである。新しい出会いが必要であるなら、即刻完全消去する。アドレス・電話番号、知り合いのメモリの多さを誇る人もいようが、数百数千件のアドレスがあっても本当に必要なのは2割強である。キーとなる人の絞込みをかける。

 思い出の物々品々の処分は、思い出の濃淡があるので一概には言えないが、思い出の物々品々は箱一箱のみに限るとして箱の中身を入れ替えてそれ以外は捨てていく「1箱方式」や、敢えて目に付くところに置き意図的に邪魔になるようにして真の価値を測ったりすれば、整理と処分はできていくように思う。

 きっと、思い出の物々品々の整理を通して、自分がこれまでに何を大切にしてきたのか、そして、自分がこれから何を大切にしていきたいのかを改めて知ることになるであろう。我々は、過去のものを整理し処分することで我が身そのものを新たにするのである。大切なものは、思い出のものや思い出そのものではない。古人は、本当に大切なことは目には見えないといった。

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