いつか使うものを捨てる

勉強の進み方というのは、気合や精神力、才能や素質のみに求められるものではない。人は環境の生き物という。われわれはこの言葉の通りに、周りの環境から強い影響を受けている。どのような空間で勉強をするかも、勉強の進捗に影響を与えているわけである。われわれは、よくよく考えてみれば要らないものに囲まれて生きている。「捨てる」ことが、勉強空間の改善の一助となれば幸いである。

われわれが捨てずに取って置く筆頭は、「いつか使うから捨てない」ものである。押入れや戸棚、物置にはいつか使うからといって捨てられないものが溢れている。しかし、「いつか使うから」というのは、本当なのであろうか。

「いつか使うから捨てない」ものが溢れる原因は、その「いつか」に期限が無いからである。これが食べ物のように賞味期限があるなら処分のときは将来予定されている。しかし、食べ物以外には、これといった消費の期限がない。このため、理由もなく長期間保管されることとなる。

そして、「いつか」というのもはっきりしない。われわれは日常の雑事に囲まれて生きている。いつかそのときが到来しても、そのときに備えたものの存在など全く記憶から抜け落ちているものである。では、ここで、管財人のように、いつかのために取っているものの一覧をメモしたとしよう。しかし、われわれは、雑事にかまけて、そのメモの存在すら忘れる生き物である。マグネットで冷蔵庫に貼り付けていても。

次に、「使う」に焦点を当ててみる。われわれは取っておくものに必要性を見出しいているが、それは本当だろうか。必要性の濃い薄いを計ってみると、常に使うものは必要性が高いといえる。たとえば、いま身につけている靴下は、現に使っているわけだから捨てなくても良い。

次に必要性があると思われるのは、使用が中断されているものである。たとえば、季節物である。蚊取り線香といった夏の物やセーターといった冬物は、使ってはいなくても使用を一時中断しただけであって、再び使うことは予定されている。こうした使用中断品も必要性があると考えられる。

では、必要性の対極を見てみよう。必要性が最も薄いのは、一度も使ったことがないものである。一度も着ない服や買ったけどそのままの状態にある品々、貰い物引き出物の類がこれに当たるだろう。われわれはそれしかない場合は使うかもしれないが、その他の選択肢がある場合は使わない。どうしても使わないものはあるのである。

では、濃い薄いの中間にある「一度、または数回使ったことがあるが、今は使っていないもの」はどうだろうか。たとえば、以前に見聞きしていたCDや本雑誌、洋服靴鞄の類である。また、現在の仕事や生活に直接的に関係がないかつての各種資料や道具類部品器具、料理のレシピ食材なども、入れることができるだろう。

実は、これらが1番溜まりやすく処分に困るものである。必要性の高いものは適正な頻度や量を見直せば減らすことはできるし、一度も使っていないものは捨てやすい。しかし、事実として使ったことのあるものは中々に捨て難いのである。

しかし、それでも、われわれは敢えて蛮勇を奮ってでも、これらのものを捨てなければならない。なぜなら、われわれはこうしたものを捨てることで、過去の整理と清算を行っているからである。一度でも使ったことのあるものはまだしも、よく使ったものには往時の記憶や思い出が染み付いているものである。われわれがそれほど必要性のないものを取っておこうとするのは、過ぎ去った時間を追い求めて手中に収めようとしているきらいがないであろうか。当たり前であるが、われわれは、過去を再び求めることができないこと、再現できないことなど知っている。しかし、過去が染みこんだものは、収納できる空間の分だけ、求めることができるのである。

しかし、わざわざ今捨てなくてもいいではないかという人もいよう。先に「敢えて」「蛮勇を」と表現したのには理由がある。われわれは、外からの力がないと過去のものを処分できないからである。たとえば、引越しやら転勤、究極的には死といった止むを得ない事情がない限り、それらを処分できないでいる。しかし、捨てるときにはもったいないと思いつつも、勇気を奮って捨てていくであろう、他人から見ればゴミ同然のものを。そして、捨てた後で、捨てなければよかったと臍を噛んだことはほとんどないといっていい。

われわれは、広々とした部屋や押入れを見るに付け、過ぎ去ったときに執着せずとも、過去のものがなくても生きていけることを知るのである。そして、たとえば、古い音楽のCDを捨てることで新しい音楽を見つけるように、捨てることで、新しきを知る準備が整うのである。

古人は、本当に大切なことは目には見えないといった。これに倣えば、われわれが本当に必要としているもの、真に求めているものも、目には見えないのではないだろうか。

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