もの捨て

新たに何かを勉強していくには、生活を改めなければいけない。小手先のことはこれまでに述べてきた。たとえば、細切れ時間を活用する、テレビは録画する、惰性の時間を切り詰めるなどである。ここで生活を新たに、抜本的に変える手段を紹介したい。その手段とは、「捨てる」ことである。

もちろん、捨てるというのは、ゴミとガラクタの類を捨てることである。しかし、ゴミとはいえ、古新聞やみかんの皮を捨てるのはわけがない。ここでいう「捨てる」は、本人が必要と思っている5つのものであり、それらを強いて捨てていくのである。

ひとつ目の捨てる対象は、「いつか要ると思っているもの」である。ふたつ目は「とりあえず置いているもの」。3つ目は「集めているもの」。そして、4つめは「溜めこんでいるもの」。最後の5つ目は、「捨て難いもの」である。ここで騙されたと思って、身の回り360度を眺めてほしい。

勇気のある人は、週末に押入れや戸棚、物置を開けて覗いてみてほしい。必ず、5つのどれかに当てはまる何ものかを見つけるであろう。

しかし、なぜ、5つのものを捨てることが、生活の改めになるのであろうか。理由は単純である。これら5つのものを捨てようとするには、考え方を大きく変えねばならないからである。生活を変えるには順番がある。まず変えないといけないのは、考え方である。考え方を変えるから行動が変わるのであり、行動が変わるから生活が変わる。しかし、上っ面で表層的なものでは、変化の大元である考え方を変えることはできない。世に流布する収納方法や整理術で行動が、引いては生活が変わらないのは、本人の考えをほとんど変えないからである。考え方を変えるには、根本的に変えねばならないのである。

5つのものを捨てるには、考え方を大いに変えなければ到底、できない。考えを今よりもっと深くし、更に大きな視野で見、健全でより確かな判別眼を持ち、過去と将来を見通す視線が必要となってくる。

たとえば、対象のひとつ目の「いつか要ると思っているもの」を捨てるには、どう考えればいいだろうか。身の周りには、いつか要りそうな、コード類、紙袋、プラスチックや金属製の空き箱が溢れてはいないだろうか。考えてみてほしい。それらが必要になる状況はいつなのか、と。この1年で役に立ったことが何回あるのか、と。何かで代用できないのか、と。そして、「我々は何を不安に思い、何に備えようとしているのか」と。

「とりあえず置いてあるもの」も、よくよく考えれば要らないものだらけである。とりあえずとは、何時を以ってとりあえずなのか。心中に要らない予感はないだろうか。とりあえずの品が役に立ったことがあるのか。結論を先延ばししているだけではないのか。そして、こう考えてみてほしい。「我々は、どのような安心を手に入れようとしているのか」と。

「集めているもの」の筆頭はコレクションである。部屋を占拠しているコレクションを前にこう考えてみてほしい。いったい誰に、なんと思われたいのか。どのようなアイデンティティを求めているのか。金と時間を費やし、部屋を占拠し、精神の贅肉を増やし、「我々はどのような見栄を張ろうとしているのか」と。

「溜めこんでいるもの」を、発見したときは、こう考えてみるとよい。使いもしないものを溜めこむのは、単にケチなだけではないか、と。「使いもせずにものを取っておくことは、強欲ではないか」と。自分がケチである物的証拠をまじまじと見つめるがよい。思いもよらぬ自己像を見出すだろう。

以上の4つは、理性的に考えれば多くは解決する。問題は、最後の思い出の品々、頂き物、手紙類、慣れ親しんでいた洋服といった「捨て難いもの」である。しかし、我々の結論はひとつである。使わないものであれば、捨てなければならない。我々は、これらの品々を通して何に執着しているのか、いま一度考えてみるべきである。大切に着ていた服には思い出が詰まっている。しかし、我々は、過去の楽しかった思い出で生きていくのであろうか。たくさんの楽しい思い出や幸福の記憶があれば、我々は幸せなのであろうか。そうではあるまい。それは逆に、物寂しい。

我々は、捨て難いものそのものに執着しているのではなく、過去に執着していることに気付くのである。大切なことは、これまでの過去とこれからの将来を計りにかけることである。捨てることは、より大切なこと、生きる上位の意味、己が真に求めているもの、これから成し遂げねばならないことを見出す過程である。過去を捨てるからこそ、新たに未来をつかめるのである。

古人は、大切なことは目には見えないといった。我々は逆に、目に見える物々品々に目を奪われるがために、本当に大切なことを見失っているのではないだろうか。現代に生を受けた我々は、敢えてものを捨てることで新しく生きる。新しく生きるなら、ものを捨てて見よ。

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