気負いと気取り
できる、できるはず!と気負うことはよい。自分にプレッシャーを与えるのは、手軽な発奮材料だし、きっかけがないと身体はなかなか動かないものである。また、気負うことで、目の前の敵を呑んでしまえるのもよい。合格率のパーセンテージやネームバリューに押され実力を出し切れなくなるくらいなら、空度胸で試験を丸呑みした方がいい結果に繋がる。 気負うことは一種の強力なプレッシャーとなるけれども、プラスの思考に連動しやすく、物を為す上では便利な考えなのである。もちろんのこと、単純に(自分はできるはず!)と考えてみても、できない現状に変化は無い。しかし、それは表面だけの話である。できるはずなのにできない現状を前にすれば、人は自分の足りないものや不足していること、やるべきことに思いを馳せるものである。 だからこそ、そこに創意と工夫が生まれ、本当にできるまでの穴を塞いでいくものである。できないことに遭遇したら、試しにこう考えてみるとよい。(平均以上の時間を費やしたのだから普通はできるはずなのに、なぜだかできない。何が不足しているのだろうか?)と。 また、気負うことは、「できるようになる」という明確なゴールが設定されている点も優れている。最終的な姿がイメージできている分、がんばりやすいし、実際にがんばれる。(このくらいの問題と問題数なら、30分くらいでできるはずなんだけどなぁ)と、試しに疑問を持ってみるとよい。今以上に、もっと手早く問題を裁く術を見つけるだろう。このように、気負うことは、試験勉強において良いカンフル剤となるのである。 しかしながら、気負うことは気取ることではない。両者ともに、現状を正確に、ありのままに捉えない点では同じであるが、求めるものと方向性は全く違う。 気負うのは己にプレッシャーを与えて発奮するのに比べ、気取りには(できる、できる)と余裕をこくだけで、緊張感のかけらもない。また、気負いには敵を敵として、敵を方便で敢えて呑むのに対して、気取りには敵の存在はない。敵なのに敵とせず、甘く見るか、なめるのみである。気取った気分では、勝てるものにも勝てないだろう。敵はいないのだから。 そのうえ、気取りが良くないのは、事実の歪みがますますひどくなっていく点である。いうなれば、気負うのは理想を現実に見立て、その理想の実現に努力するということができる。対して、気取るのは、妄想を現実とし、現実を妄想に近づけるために努力するということができる。 やるべきことに対して甘く見ていては、やる気は出ないし行動にも繋がらない。かつて、簿記3級?(フフンと鼻を鳴らして)3日でしょ、といった人は、10年経った今でも取っていない。おそらく、3日と空かずほど忙しい毎日の10年間であったのだろう。 また、気取りは、己の妄想を守るがために、嘘と虚言が増えることも事態を悪化させる。あの本読んだ?と聞かれれば読んだというし、知ってる?と聞いたら、本当はよくは知らないことでも知っているという。そして、それらの嘘を守るがために、言葉に言葉を重ねていく。しかし、いくら百万言を費やそうとも、小は小であるし、大は大でしかない。 そして、気取る本人も、うすうす己の薄っぺらさに気付いているのだろう。再び言を重ねるのである。エネルギーは、嘘と虚言、そして妄想を守り維持するがために費やされて、問題の解決には少ししか向かわない。気負いが、小なら小なりに、少しずつ穴を埋めながら大を目指して努力するのに対して、気取りは、小は小でないことに言葉を使うのみなのである。 基本的に、自分がどうで、誰で、何なのかについて、ほとんどの人は興味を示さない。絶無である。もし、物事がうまく運んでいないのであれば、気取るという己を必要以上に大きく見せようとする意識がないかを確かめることである。気取りによって、基本的な事実を見る目が歪んでいれば、問題は解決に向かうどころか悪化するのみである。先にいったように、気取りは妄想を育てるのみで、何も残らない。あるのは、一時のわずかな安心と更なる虚言の始まりのみである。 気取ったからといって、中身が増えるわけではない。我々は、余計なことをしないだけで新たな行動、もっといえば、真の解決を目指す行動とそのエネルギーを確保することができる。思えば、我々はどれほどつまらない、取るに足らないことで、己を費やしてきたのであろうか。 我々は、よくは知らないと言う勇気を持つだけでも、成長と発展の余地を手にすることができるように思う。何も知らないことを売り物にした古人は、2,500年を経た現在においても、燦然とその名が残っている。それは、何も知らない視点とよくは知らないという見方で、新たに現実を見直すことの有用さを示唆しているのではないだろうか。はっと気付くこと、あっと驚くことはまだまだたくさんある。 |
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