マイペースの罠
独学の利点は、自分のペースで進められる点にある。たとえば、5の力量しかない人に10のことをやらせれば、必ず潰れるか挫折してしまう。だから、5の力しかないときには、4くらいの難易度からやり始めて勢いと自信をつけていき、機を見て5、6と徐々に負荷を増やしていくのである。 自分の力に合わせて段階的にやっていくと、最初は全くできそうになかった10のことでも、段々とやっていけば最終的には何とかできるようになる。力が不足しているときや全く見ず知らずのことをやるときには、「自分なり」のやり方の方が要領や調子をつかみやすい。だからこそ、マイペースはよいといわれるのである。 しかしながら、マイペースに進めることが、全てが全て正しいとは限らない。マイペースの半分は正しいけれども、もう半分には気をつけなければいけない。われわれは、マイペースには罠があることを、よくよく知っておかねばならないのである。 いくらマイペースだからといって、10の力を持つ人が5のことしかやっていなかったら、どうだろうか。決してがんばっていることにはならないだろう。そのうえ、自分の持っている力量を十分に発揮しないのは割の悪い話で、当の本人が大いに損をしていることになる。がんばればもう1割・2割は質と量を高められるうえに、今より少ない時間で同じことができてしまうのに、マイペースという名の低水準に止まり続けるのは賢明とはいえないだろう。 マイペースの弊害の最たるものは、マイペースが精一杯、ベストの状態となってしまうことである。鍛えれば10くらいのことができる人が、5や6が自分のペースだからといって、それ以上のことを望まなくなってしまう。自分で壁を作り、その自作の壁が自分の限界となってしまうのである。勉強というのは、試験のためであったり、合格のためであったり、新しい知識を求めることでもあるが、そのほかに、自分の力の向上を図るねらいをも有している。「自分なり」の生ぬるい壁では、確かな力を育むことはできまい。 独学には監督や管理人がいないので、得てしてマイペースの罠に陥りがちである。当の本人はマイペースのつもりでも、傍から見れば実際にはサボりや怠りになっていることがあるのである。もちろんのこと、先ほどいったような、相応の理由があってのマイペースは妥当なやり方である。たとえば、仕事が忙しかったり、大きなイベントが控えていたり、不調のときや体調が優れないときには、己の力量以下の作業で済ませておくことも方便である。しかし、これといった理由もないのに、マイペースで済ませておくことは、怠惰のそしりを免れない。 では、マイペースの害を防ぐにはどうしたらいいかというと、「これで正しいか」と問い続けることにある。また、もっとたくさんのことを、もっとうまくできないか、もっと効率よくできないか、と問うてみることである。しかしながら、この問いは、正しさや効率を一心に求めることに重きを置くのではないし、常に正しいか否かを気にかけ、やっていることが良いか悪いかと疑心暗鬼になることでもない。この問いは、何か問題の解決を求めるというよりかは、もっと深いところに根ざした可能性を求めることにある。 正しいかという問いかけは、うまくいっていないときには、誰でもやっていることである。よほどの楽天家でない限り、目の前のことがうまくいっていなければ、もっと上手にできないかとあれやこれやの手立てと方策を考えることだろう。しかし、問題は、うまくいっているときに、この問いがあるかどうかなのである。そして、(これでいい)と自分で思っているときに、この問いが発せられるかどうかなのである。 ほとんどの人は、うまくいっているときに正しいか否かを考えもしない。考える動機はあまりないだろうし、好調な気持ちに水を差す余計なことでもある。空気を読まない思考であり、邪魔な思考である。しかし、敢えて「正しいのか」という問いを、意識の片隅か無意識の狭間に設けておくことが伸びるためには必要なのである。「これでよい」という完結した世界には停止と後退があるのみで、前進はない。異物の思考が、次の成長の余地となり、改良の源泉となる。 大切なことは目には見えないと古人はいった。いうなれば、われわれは、大切なことを見ようとしていないか、自分から見えなくしてしまっていることに意を払わなければならない。また、己が何を見ようとしなくなったのかも、考察する必要があるだろう。われわれは、マイペースや自分なりが本当に機能しているかどうかを確認する必要があるのである。 独学には、正しいかどうかを問い続けなければならない荷厄介な面がある。しかし、こうした面倒なことを止めてしまえば、残るのは停滞のみとなる。正義の実現や真実の追究のように、わたしは正しさを問い続けることに独学の意味があると思う。 |
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