実際のところ

試験勉強で大事なことは、勉強することに対して甘く見ないことである。舐めないこと、おろそかにしないことが肝心である。最低でも過去問の内容はおさえ、テキストの重要な部分は疎漏なく見ておく。このとき、勝手な判断や手前味噌の識別は危険である。試験で重要かどうかは、出題者の側が決めることで、あなたではない。自分では重要ではない、やる必要はないと思っていたこと、たとえば、引っ掛け問題などが、出題者側にとって好都合な問題であることは多い。

まだ、試験において大切なことがある。それは、欲張らないことである。食べ過ぎ・呑み過ぎの例に漏れず、勉強のし過ぎも同じく危険な行為である。基本的に勉強においては、脳の消化量は決まっている。それ以上は、どれだけやっても、右から左へ流れていくだけである。脳の消化量は、実力が伸びるにしたがって増えていくが、試験勉強の初期や序盤で12時間の勉強をしても、実力にはほとんど転化しない。勉強量も実力の標識である。実力が付くにつれて、アレもコレもと手を出していけばいいわけであり、最初から全てをこなそうと、吸収しようとせずとも良いのである。

さて、このように、試験勉強における大切なことをふたつ見てきたが、よくよく見れば、この二つは矛盾している気もする。甘く見ない勉強をしていくなら、ひとつひとつをしっかり見ていかねばならなくなる。それだけ、やることはたくさんとなってしまい、あれやこれやの欲張り勉強になりかねない。片や、欲張らずに勉強するのであれば、ある程度、勉強をはしょらなければならなくなる。上手に取捨選択しないと、勉強内容をおざなりにしたのと変わらなくなり、舐めた勉強になりかねない。ふたつとも正当なものである。しかしながら、いざ、やってみようと実践に入るとうまくいかない。こうした、試験勉強の実際上の問題を、どのように考えたらよいであろうか。

こうした矛盾が生じるのは、実力というものが目には見えないからである。実にわかりにくい。数字で図ることはできるが、模試等で合格間違いなしの成績を有していた人が、不合格になることはおかしなことではない。逆に、良くある。これが、たとえば、彫刻なら、その出来はよくわかるのである。鑿と槌で石材か材木に対面している自分を想像してみてほしい。もし、作業が初期状態なら、当たり前ながら、大まかな輪郭を作るためにばんばん彫っていけばよい。最初からちまちまと、たとえば、髪の毛の一本、一筋のしわまで仕上げようとする人は居ない。逆にいえば、ほぼ石材のままの材料に髪の毛といった細部を表現することは不可能であろう。ざくざくと大胆に彫っていくはずである。対して、難しいところ、たとえば、指先や目・鼻の部分を彫琢するときは、一鑿ごとに最大の集中力を以って彫る方がいい仕事になるだろう。繊細な部分にじゃんじゃん鑿を振るう人はそうは居ない。彫刻の作業を例に考えて見ると、全てに一生懸命になるわけでもなく、全てに集中せずとも、最終的な目標を果たすことはできるわけである。

彫刻は目に見えるがゆえに、こうした加減が付くのである。片や、わたしたちの問題である勉強である。本当に捕らえどころがないがゆえに、上述したような「やり過ぎるな」と「どんどんやれ」、「抜かせ、先に飛ばせ」と「丁寧に丹念にせよ」といった相矛盾した勉強のコツが発生してしまうのである。

上記の矛盾を和らげるには、まずもって、現状の自分の実力を正確に把握することが第一に考えられる。実際の知ともいうべき、自分の実力の「実際のところ」がどうなのかを意識することが大切になってくる。自分の実力をよく知っていれば、弱点や忘れていそうなところ、苦手な項目は丁寧に見ていくことができる。力を入れるところは力を入れる、そうでないところは適当に済ませてしまうことが可能になるのも、自分の実際を知ることにかかっている。あたかも、彫刻家が作成中の作品の周りをぐるぐる回って、思案に耽るが如しなのである。

勘違いをしてはならないのは、実際知=実力ではないことである。自分の実際をよく知ることと実力とは密接な関係があるけれども、等しくはない。ただ、どこができてできないのかを知っておくだけで、実力の伸びが大いに違ってくるだけである。実際知の把握は、勉強の材料であるテキストと問題集、過去問を通して把握していく。それらの教材との距離で図るのが、最も誤りが少ない。試験勉強というのは、教材のみにがんばればうまくいくものではなく、それらとの接触を通して自分の力を知ることも、劣らず重要なのである。ある単元ができないことを正確に知っているならば、半分はできたも同然である。時間を捻出してやってしまえばよいからである。合格のキーとなるアドバイスも、鍵穴がなければ開かない。自分の実力を正しく知ることが、助言を生かす大もとなのである。

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