過去問が現場

現場百回という言葉がある。刑事物でお馴染みの捜査では、現場に何度も足を運ぶ刑事がスクリーンに映し出される。とはいえ、現場百回は何も刑事物の専売特許ではない。調査機関に属する人や、経営者の方、外回りの営業マンにとっても馴染みの言葉である。答えは現場にあるのであって、会議室にはないものである。

それでは、なぜ、100回もの回数まで、現場を見に行かなければならないかというと、単純に、1回見ただけではよくわからないからである。どんな人でも、同じ場所に100回向かえば、普通の人には見えない兆候や、カギやヒントとなるものを見出すものである。

また、現場を何回も見に行くことは、現場以外での作業によい影響を与える。現場で見聞きしたことは、本人の意図しないところで、現場以外の調査に影響を与えている。また、現場以外の場所で調べたことは、現場の再調査時に新しい発見や見落としを気づかせる契機となる。現場と現場以外のことは互いに影響しあい、フィードバックしているわけである。

たとえば、刑事物の定番だが、主人公は現場を何回も見ても、犯人の手がかりを全くつかまないものである。そうこうして逡巡する主人公は、現場以外の調査時にふと閃めいて、現場の不自然な点をフラッシュバックで思い出す場面がある。たいがい、名脇役といわれる人の何気ない一言や動作で、主人公は解決の大きな手がかりを得るものである。もし、この主人公が、何回も何度も現場に足を運んでいなければ、お得意(予定調和)の閃きもなかったことであろう。

この「現場百回」は、受験生にも縁のある言葉である。まず、百回という数字がいい。どんな難解な内容でも、百回やり続ける根気があれば、絶対に理解することができる。現実的には、時間と手間の費用対効果も考慮しテキスト試験勉強は進めなければいけないが、大概のことは、百回もやればマスターして点数源にすることが可能である。

それでは、「現場百回」の現場とは何だろう。わたしたちにとって、現場とは何かというと、お馴染みの過去問である。過去問を、単なる問題集と考えてはいけない。過去問を、テキストや問題集、模試その他と同列に扱ってはならない。過去問は、過去問とその他の教材と分類できるほど際立った特徴がある。過去問こそが試験の事実にあたるからである。

極論ではあるが、試験の事実は過去問以外にはない。はっきりいえば、テキストや問題集といった教材は、たとえそれがどんなに優れた品質であっても、所詮は第3者による予想や推測でしか過ぎない。試験というのは、出題者と受験生の2者による戦いである。試験における唯一の事実、手がかりとなるのは過去問なのである。

過去問は試験の事実であるから、試験の傾向を把握するのも対策を練るのも、その大元となるものである。試験に限らず、何かを分析、観察、比較、研究しようとするなら、まずは対象の事実から、または、自分の経験から始めなければならない。単に本で読んだことや著名人の理屈を借りただけでは、全くものにならない。

畳の上で水泳の練習をしても上達しないのと同じである。試験勉強も過去問という事実を抜きにはしては語れない。もちろん、良質のテキストや問題集だけで合格することはできないことはない。しかし、過去問という事実群をおさえた方が、テキストや問題集の負担は遥かに軽くなるのは間違いない。

というのも、テキストや問題集といった教材は、過去問が元になって作られるからである。テキストの「重要」という文言や、問題集の問題のランク付けは、すべて過去問に根拠がある。過去問で何回も問われているから、「重要」とテキストに書くことができるのである。問題に「Aランク」と評することができるのである。テキストや問題集は、気随気ままに作られているわけではない。すべて、過去問という事実の影響下で作成されているのである。

刑事物では、捜査に行き詰るたびに主人公は現場に戻る。経営者は、経営が傾いたら率先して売り場や工場、得意先に出向く。営業マンも、パソコンのデータやコンサルのレポートを眺めているだけでは、何ひとつ売り込めない。受験生も同じである。現場なくして、試験勉強はない。過去問演習を済ませたからといっても、必ず直前期あたりで一度は戻ってきて、過去問を解き直すことである。その都度、これまでの演習で気づかなかったことを、過去問に見出すであろう。刑事物の主人公になったつもりで、何度でも過去問という現場に戻って解き直してほしい。過去問は予想以上に奥深いものである。ま、百回は多過ぎだが、3回5回と過去問を繰り返すうちに、確かな証拠を手に入れることができるだろう。

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