天使のおなら

なんといわれようとも、試験勉強の結果は、徹頭徹尾、記憶量で計られるものである。試験では若い人が有利だといわれるのは、頭が柔らかく記憶する力が高いからである。とはいえ、昨今の脳科学の研究では、頭は使えば使うほどよくなることがわかってきた。記憶も同様で、憶えれば憶えるほど、記憶はよくなるという。年齢差というのは別段、記憶にとってはそれほどのハンディではないのである。

年長組の合格率が低いのは、仕事やら家事やらで、勉強時間を十分に確保できないことが大きな要因であろう。環境が問題なのであって、才能や年齢が問題なわけではない。年を食っているからといって、それほど卑下することはないのである。要は頭と時間の使いようである。

さて、試験勉強を抱えて生活をしていると、「フト、あれなんだっけな」という思い駆られることが多くある。普通に帰宅途中に、ちょっとした疑問が心中に浮かぶものである。試験勉強を抱えているときに頭に浮かぶこの「フト」を、わたしは天使のおならと呼んでいる。おならだからいい臭いなわけはないが、天使のだから幸運でもある、という意味がある。というのも、こうしたフト感を、めんどくさいが即メモして、家に帰って見直すと、記憶の定着が断然よかったからである。実は、こうした記憶を逃さないことが記憶のコツとなっている。

もちろん、この「フト感」を一々追うのはめんどくさいことである。しかし、かったるいのは最初の2〜3回くらいである。おそらく、峠は10回なのであろう、どんな資格試験の勉強中でも最初の2〜3回はめんどくさくても、10の壁を越えるとまったくめんどくささを感じなくなる。逆に「フト感」を確認しない方が気持ち悪くなるくらいなのである。このフト感に追従して確認したことや復習したことは、よく憶えかつ忘れないし、もやもやがスッとした感じがして気分もいい。

個人的には、こうした頭に浮かぶ「フト感」は、記憶の素子、記憶の萌芽とだと考えている。この生まれたての記憶の芽は、少しの風や気温の差で枯れてしまう。フト思ったことをいうのは、何度も経験があるかと思うが、さて、それでは、そのフト感がどんな内容だったかというとあまり憶えていないものである。だから、この天使のおならを活かすには、小まめに手をかける必要がある。まず、フト思ったことはメモすることである。これは5分以内にすること。でなければ、必ず忘れて思い出すことはない。せっかくの、効率のよい記憶のチャンスを自ら葬ったのである。まずはメモから、である。携帯電話のメールを打つ時間と手間はあるのだから、メモとペンを取り出すくらいお手の物であろう。紙がないなら手に書くのもよい。

そして、家に帰ったら、そのメモ書きに書かれていることを愚直に見直すことである。機械的に、といってもよい。とにかく、テキストか問題集でメモの内容を洗うことである。(そうだった)とか(なるほど!)という感想があるだろう。また、フト感のあったところは、その旨をちゃちゃと書いておく。そうすると、のちの総復習のときにまたとない指針となる。これで、少しは天使のおならの延命措置は完了したといえよう。これだけでも、記憶の残り方は桁違いに違ってくる。

記憶というものを、単に脳の不可思議な作用ではなく、植物のようなものと考えてみる。先ほどの天使のおならは、萌芽だった。しかし、芽が伸びたとはいえ、それだけでは植物は成長しない。水をやったり日当たりを考えたり、肥料をやったりしなければいけない。これは、勉強でいうなら、テキストや問題集で、見直し確認し、繰り返すことにあたる。ある程度成長しても、放置は禁物である。病気で苗が枯れるかもしれないし、動物のいたずらに遭うかもしれない。メモにして、ノートにして、出先で、電車のなかで、細切れ時間で、何度も触れて手間をかける。そうすることで、記憶の根が張り、芽が伸び始め、次第に幹がしっかりし、葉っぱが生い茂り、最終的には手を入れずともスグに思い出すことのできる「記憶」に生長すると考えるのである。

記憶力が良くないのであれば、回数で勝負すればよい。単にこれだけが、記憶の真実である。物覚えは、愛着、極端にいえば、合格への執着の度合いの問題である。月に1回しか遭わない人の顔を憶えているだろうか。それほど、明確なイメージはかけないはずである。逆に毎日、顔を合わせる人はしっかりまぶたに焼きついているであろう。ときどきは忘れたいであろうが。

記憶のチャンスというのは、勉強時間という数時間だけ限定されるわけではない。「フト感」というのは、誰にでも生じるものである。が、それを活かすか殺すかは、当の本人次第である。いつ訪れるかもわからない記憶チャンスをしっかり掴むことである。我々は、老練に時間を利用することはできるのである。

ページの先頭に戻る ホームに戻る

 

 
         
コラム一覧でございます
過年度の古きコラムでございます
    
当サイトに掲載している情報は、当サイトがその内容を必ずしも保証するものではありません。 情報の活用は利用者各自の責任の範囲内でお願いいたします。すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。

----- Copyright (C) 独学のオキテ?くらげ (:]ミ All rights reserved -----