正しい解を選ぶ

問題文をよく読んでみよう。ほとんどの問題文では、『正解を選べ』と表現しているだろう。しかし、果たしてそれは正確な表現であろうか。原則的に、試験問題は解けるようなっている。

試験範囲から逸脱した選択肢は出題されないし、出題されればミスとして扱われる。出題ミスがあれば、試験官が試験前に正誤のお知らせをしてくれる。正解がふたつも導ける試験問題や正解がない問題も出ない。訂正不可能なミスであれば、その問題は無条件で受験生にプラス1点される。問題中の選択肢には客観的な正誤理由が与えられており、解答の機会は完全に保証されていえるであろう。であるから、単純に考えれば、選択肢それぞれの理由と根拠をおさえられた受験生なら、問題を完答できるといえる。

しかし、実際には、試験問題は完全には解けなくなっている。現在の試験問題は、ふるい分けのために選択肢の曖昧化や難問化が進んでいる。また、思考問題や新傾向問題といった新種の問題の出現も顕著になってきた。問題集や過去問をひも解いてみれば一目で、ひとつひとつの選択肢に大いに悩む作りとなっている。

重箱の隅を突く小理屈だったり、片々たる知識の切れ端をもって正解の根拠としていたりする。テキストを覗いて見れば、解答の根拠は小さな文字で書かれていたりする。一生懸命考えたのに、問題がそんな作りであれば、新聞の社説を読むような虚無感に包まれてしまう。であるから、われわれ受験生は、こうした出題を鑑みた戦術をとる必要がある。

われわれは、実際には正解を選んではいない。正確にいうなら、正解っぽいものを選んでいるだけである。これが正解!と言い切れる問題は一体いくつあろう、どれだけ目にするだろう。われわれが遭遇するほとんどの問題は、明確には言い切れない。問題演習や模試、本試験においては、「完全な一問一答にはなっていない」ことを念頭に置かねばならないのである。

実際の解答作業は、選択肢を相互に比較し「より正解っぽいもの」を選ぶ作業である。明白に正解と言い切れる問題などまれで、解答というのは、正解っぽいもの、正解に近いものを選ぶことが大半となっている。この点をしっかり理解しておかないと、正解を「純」に追い求める間違いを犯してしまう。ひとつの問題にうんうんと頭を捻るのは、間違った解答方法なのである。選択肢にある程度の判断が付けば、正解を適当に選んで次の問題に進むのが、正しい解答方法なのである。

しかし、これは試験においてのみ、有効な手段であることを忘れてはいけない。ひとつひとつの解答を適当にするというのは、意図的にそうするのである。適当解答は、一種の受験技術なのである。もう一度いっておきたい。受験の技術なのである。受験や試験以外では有効ではない考え方なのである。試験や受験では、数十問の問題を限られた時間内で、ある一定の点数を取らなければならない。そのうえ、1問1問が曖昧勝つ微妙で、それが数十問も並んでいる。であるから、ある程度の適当さを含んで解答していかないと時間が足りなくなるのである。こうした事情があるからこそ、適当な解答が試験のコツになるのである。

しかしながら、適当な解答や適当な判断が割に合うのは、試験だけの話であり、身のまわりを振り返れば、適当な推論や判断で物事が進んでうまくいく環境があるだろうか。ほとんど、ない。試験でうまく行くやり方は試験でのみ有効なだけで、それを実生活に応用すれば、手痛いしっぺ返しがあることを賢明な皆様ならご存知であることだろう。何十人と適当にお付き合いしていれば、最縁が到来するとは思えない。

昨年の末、京都検定を受けてきた。詳細は省くが、この試験ではどうにも対策の難しい問題が3割出題される。考える余地も少なく、適当に解答するのが真の正解といる問題が多々出題されるのである。わたしは、先ほど述べた受験の技術に従い、できそうにない種の問題は適当に解答し、解ける問題に尽力した。すべての問題を解き終えたとき、ふと周りを見てみた。1問1問、揺るがせにせず解答している人が多かった。特に年配の方に多かった。一生懸命、問題と解答用紙に向かっていた。試験では非効率なやり方であるが、生き方としてはそれが正しいと思った。たんねんに、ひとつづつ、しっかりと。そんな言葉がしっくりくる解答風情だった。そして、彼らはそうした言葉で形容される生を歩んできたのだと思った。試験慣れした自分にとって、とても新鮮に映ったが、複雑なものが胸中にあったのも事実である。

一所懸命に勉強しても成績が芳しくない人は、いま少し試験を適当に考えてみるとよい。そのやり方は多くの面で正しいが、こと試験については、技として、そう考えてほしい。少しがんばらないほうが、うまくいくときが多かった。100%のがんばりは、試験後に採っておこう。がんばることは試験よりほかのことにある。

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