「仮に」

良薬、口に苦しという。人の世はよくできたもので、1回で合格を決めた人より、2度3度、試験で痛い目に遭っている方が合格後はうまくいくという。たとえば、就職や転職がとんとん拍子で進んだり、試験勉強のときに独立開業時に当てになる人脈ができたりする。何度も不合格となった試験の勉強はつらくてめんどくさい。が、合格後の準備期間を伴にしていると考えれば、それほど損でもないのである。

多くの人が、1回で終わらせたいといって不適切な勉強、無理な勉強をしている。2回で合格すると踏んでおけばもっと人生や仕事にも活きる勉強になるのに、テクニックや技術に走る。1回の合格にこだわるあまり、ほんとうなら2回で受かる実力の持ち主が、何度も受験する苦渋を飲んでいる。無理を通せば道理は引っ込むものである。

時間が足りず間に合いそうにないのなら、今回の受験は基礎固めと考え直していくほうがよい。今年の受験は模試だな、敵情視察だという風に捉えて、試験勉強に臨む方が実力の伸びはよい。背伸びをして無理を重ねるよりも、足元を固める方が得点的にもよくなる。また、合格者は合格してからも勉強であるといっている。別段、1回にこだわることもないのである。チャンスが1回しかないと思い込むことから、プレッシャーは高まっていって頓痴気な事態に陥るのである。

とはいえ、しんどいことは1回で済ませたいのが人情である。そこで、仮に、で考えてみよう。「仮に」、もう1年、もう1期間、もうワンクール、もうワンタームあったとしたら、どうであろうか。今年の合格ではなく、来年での合格でよいではないか。また、拡大解釈して、来年合格したほうがプラスかもしれないと、「仮に」考えてみたらどうであろう。多くの人が、たとえば、この免許(資格)がないと営業できないというような切羽詰った状態ではないのだから、こうした仮定も許されよう。

もう1期間あると仮に思うと、今まで絶対的な存在感のあった本試験日への印象が変わる。終わりだと思った本試験には続きがある。ふっと緊張感は緩み開放感が生まれるのではないだろうか。(まだ、大丈夫)と心には余裕が生まれ、焦りやプレッシャーが幾分か引くのではないだろうか。こうした気分が、実は、平常心といわれるものなのである。

平常心は、試験勉強においてもキーとなる。というのも、人は焦りやプレッシャーから不合理な判断でもよしとしてしまう。たとえば、できるところなのに何度も見直して、できていないところが手薄になったり、難問奇問にいたずらにこだわったり、やらなくていいことに一生懸命になったり、優先順位の低いことばかりしたりして、本当に必要な作業を見失う。

敗退組みの受験生のうち、多くの人が2回目や3回目の受験のときに、(あー、あのときは、ここをしっかり勉強していたら受かっていたなあ)という箇所を発見するものである。試験のカンどころや自分の大切なポイントというのは平常心がないと見つけ難い。一生懸命にがんばって目の前のことに汲汲していることが、実は合格から遠ざける元凶であることが多いのである。

試験勉強というのは、確かに、1回で済ますのが望ましい。が、独学では、別段2回・3回の受験を重ねても支障はないと考える。独学はやり直しが効く勉強方法であるし、続ければ続けるほどそれは洗練され、最も自分に適った最上のノウハウへと生成発展していく。試験という領分を越え、役立つものを蓄積できるのが独学のメリットなのである。

仕事や家事を背負って、何回かの受験で合格したとしよう。この試験勉強の過程で、粘り強さやストレスへの耐久性は大幅に強化されたことであろう。長い勉強期間の中でスケジュール管理や時間の使い方も格段に上昇し血肉と化したであろう。これらは、今後の多くの苦難や困難な局面を克服する原動力となる。一方、1回で合格したとはいえ、焦りに焦り、プレッシャーに苛まされて、肌は荒れるは吹き出物はできたは、ふけが大量に発生するまで追い込みに追い込んだ逃げ切り型の試験勉強の後に合格しても、合格後に必要な人としての地力はあまり育っていないであろう。1回で済ませるというのは、合理的に見えながらそうでないときがある。1回で試験に合格したはいいが、履歴書や紹介書を埋めるときくらいにしか思い出さないという人もいるのが現実である。

ふと立ち止まって、括弧がけで自分の勉強を見直してみることである。「仮に」と考えて鈍るくらいの決意なら、それまでの決意である。「仮に」、2回3回で合格するのも悪くはないと考えたときに生まれる余裕の力で、現状を更に見直してみる。無駄な部分やムラのある部分、力みすぎの部分を把握できれば儲けものである。1回で決めないといけない人は、更に心の余裕と平常心は失ってはいけない。その方法が、この「仮に」自分の別の可能性に思いを馳せることなのである。

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