よく、「独学は難しい」といわれる。しかし、これには二の句があって、「独学は難しい。けれども、勉強自体は難しくはない」と続く。よくよく考えてみると、試験勉強の多くは、それほど難しくはない。頭を何度も捻る難しい問題は少ないし、究極的にはそんな問題は捨てればよい。本試験では、３日考え続けねば解けない問題は出ない。基本的に試験問題は、制限時間内で解き終えるものしか出されない。

独学の難しさというのは、勉強内容や学習内容にあるのではない。学習上で遭遇する難しいことやわからないことは、本試験の日までに大半が解決しているものである。では、独学で真に難しいこととは、いったい何なのだろうか。

結論からいうと、独学で難しいのはやる気の維持である。人口に膾炙されている「やる気」であるが、こう言い換えると本質が浮かび上がる。「やる気」とは、３日もすれば蒸発し、消えてなくなるものである、と。蓋し、３日坊主という言は金言である。コップの水を放置しておけば、たいがい３日目にはなくなる。まさに「３日」という日数が、やる気の本質を突いている。

３日も経てば初日の意欲は何処へやらであり、３日坊主こそ大昔から連綿と続く人間のやる気の実像なのである。やる気の問題は、気力や精神力の問題と考えられがちであるが、そうではない。やる気がなくなるというのは、お腹がすく、汗をかく、呼吸をする、寝るといった生理現象と同質のものであり、やる気は時間がたてば必ずなくなる。そのため、我々はやる気の維持に四苦八苦して、己を鼓舞しているのである。

それでは、やる気を維持するにはどうしたらいいか。世の中には、やる気を出すための様々なモチベーション理論があるが、どんな理論であっても原点となるのは、「やろう」と思うことである。「しよう」「する」と思わない限り、やる気は萌芽すら生まれてこない。しかし、とはいえ、やろうと思ってもやる気は出ないことが多い。実際に、（やろう）と思っても机に向かわないことを、我々は多数経験している。それでは、やる気を実際の行動につなげるためには、我々は何をしたらいいのだろうか。実は、やろうという思いを実際に形づくる作業が、学習計画を立てることにあたるのである。

やる気の問題は、いかにして心中の形なきエネルギーを実体化させるか、といえる。我々の多くは、（しよう）（やろう）という思いを持ってはいる。しかし、それは形の整っていないエネルギーで、生まれたばかりのそのままの姿では、もやもやして、つかみ所のない、使い勝手の悪いエネルギーである。そのため、単純にやろうと思っても、エネルギーには方向性が与えられないがために、結局、あることにはあるやる気というエネルギーは四方八方に分散して霧消する。

我々は、学習計画の作成を通じて、形のない未完成のエネルギーを実体のある「やる気」へと変化させるのである。（やろう）という思いは、学習計画を通して、形と方向性が与えられ、利用可能のエネルギーに変化する。

全くの無計画で先が見えなければ、やろうという思いは形のないままで空中を漂い、やろうかなと思っただけで時は流れ去る。やる気の面で大いに意義があるのが、学習計画なのである。独学では、学習計画は単なるスケジュールや予定表ではないことに留意されたい。やる気は、学習計画があるかないかで大きく様変わりする。

そもそも、学習計画の作成の実際を思い出してほしい。たとえば、旅行の計画を立てるときに、どう立てているだろうか。何も考えない人はいないだろう。ほとんどは、あそこに行こう、あれを食べよう、これを見ようと考えるはずである。学習計画においても同様で、テキストや問題集をぱらぱらとめくりつつ、カレンダーとにらめっこをして、この日(この週、この月)までには、〇〇まで終わらせようとか、こうしよう、ああしていこうと思いつつ、学習の計画を練るものである。実は、この計画を立てるときの（やろう）という思いが、やる気の原点にも繋がり、蓄積されていくのである。

独学では学習計画を重視する。もちろん、計画を立てたはいいが、実行できないことも多々あろう。しかし、無計画で試験勉強を続けるより、多少の方針があるほうが力強い歩みになるのは間違いがない。基本的に、独学での学習計画は、立てては直し、破綻しては新たに作り上げていくものである。そうこうして実力がつくにつれ、計画を立てる力も比例して伸びていく。そして、いつの間にか自分の生活に適し、実行可能で、重要なこと・見直すべきことが網羅された、質の良い学習計画が作れるようになる。実力の拙いときには、まともな計画は立てられないが、それでも、いま自分のやっていることと、これからやることを考えるのは無益ではない。シンプルながら、（やる）（やろう）と思う生機になるのが、学習計画の見えざる力になっているのである。