まずはお試しあり

嬉しい便りというのは、なぜだかすぐわかるものである。郵便であってもクロネコ便であっても、たとい電子メールであっても、いい知らせが来たときは虫が先にそれを知らせる。先だって届いたメールも、受信ボックスを開いただけでわかった。「合格しました」という便りだなと直感した。

届いたメールは、(いわれるがままに)問題演習中心の勉強をしたら合格できました、ありがとうございますという内容であった。こうした合格のお便りを目にするたびに、よかったと思い、そして嬉しく思う。自分が役に立ったのは、空気でいえばアルゴン並の比重で、合格の決め手はやはりメール主の勉強と努力にあったことに間違いはない。合格という結果は、えてして自分のおかげで合格するものである。とはいえ、1%のアルゴン要素であるわたしにメールをくれたことに破顔を禁じえないのである。ちなみに、マメ知識であるが、空気成分の体積比は、窒素が78%、酸素が21%、アルゴン・二酸化炭素などが1%となっている。

試験について話を戻そう。結局のところ、やはり合格の決め手は回数なのである。回数をこなせば、大概のことはできるようになる。回数は試験勉強に限らない。何かを学ぶときや、新しいことを吸収するときも同様の理である。スポーツや武道の世界では、千本ノックや素振り千回、千本乱取りといった千のつく練習メニュウが存在している。

千という数字は極めて根拠がないようであるが、実はある。どんな人、どんなぶきっちょな人でも、千回やれば多少は見れたものになるし、上手になるというよりかは、段階が上がる感じで大きくレベルアップする。上達の体験に裏づけされた数字が、千という数なのである。試験勉強においても、「千」という数字を重視しても損はない。まあ、個人的な体験からすれば千はちと大げさで、百回程度の練習や演習があればうまく行く目途ができる。数の神秘とでもいおう、その回数以後はわからないことがすっとわかったり、できなかったことができるようになったりする。少なくとも、突破の糸口が仄かに見え始める。そうなればしめたものである。

問題は、百や千まで続けられるかである。この持続の問題は、実は、性格に由来するものではなく、経験の差から生じている。根気や根性のある・なしではないのである。「それ」がいつ起きるかを、知っているか知らないかだけの差である。経験したことのある人は、「それ」が確実に起きることを知っているので淡々と回数をこなしていく。そして、できるようになっていく。

しかし、回数の壁を突破したことのない人は、50回くらいの演習で(もう、だめだ)(こんなもので、だいじょうぶだ)と、短絡的に判断を下す。そして、次に進んだり、それかやめてしまったりする。実にもったいない話である。常に、ゴールの扉は開いているし身近にある。それなのに、途中で針路変更をしたり引き返したりしている人が多数いるのである。

独学というのは、試行錯誤の回数を前提としている。独学は、虎の巻や秘伝の書を求めてはいない。1回で済む秘訣や奥義を追い求めるのもよいだろうが、それらをものにするのはやはり、1回という回数では済まないことが容易に予想できる。奥義をマスターするためには、結局は回数をこなして習熟するしかないわけである。そう考えれば、効果の定まらぬ難しい理屈めいたことはしないで、単純な数の練習にまいしんするのが最も確かなだといえる。

Educationの語源は、ラテン語の「引き出す」にあるという。数多くの試行錯誤が、自分の感知しえないところに眠っていた能力や才能を引き出す。独学は、まずは問題集や過去問での演習を重視する。テキストを読んだり理解したりするよりも、演習に重きを置く。それは、単純に回数を確保したいからである。1問解けば、あと99問である。百の壁を越えれば、何かわかったような気になる。その気で十分だ。問題集や過去問を繰り返していけば千の壁はすぐである。そうこうして、試験全体が大きく手中に収めることができ、そして各論や詳論の細かい部分に明るくなっていく。

教育や学習が、特定の方法論やノウハウに還元できないのは、それらは自分なりの試行錯誤が不可欠だからである。試行錯誤こそ、成長に欠かせない源泉といえる。その徒労こそ、次へのステップである。試行錯誤による成長は、誰にでも備わった機能であるし、その真実を知りさえすれば誰でも可能である。結局のところ、学ぶとは試行錯誤の4文字に過ぎない。極端なことをいえば、学ぶことについて述べるなら、4文字だけワープロに打ち込こめば「おしまい」なのである。しかし、それでは見栄がはれないし、見た目もよくない。そうこうして、仕方なく多くの言葉が重ねられていくのである。

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