他人なりで

独学は自由な学び方といわれる。しかし、本当だろうか。言葉は選びたいと思う。独学は自由というよりかは、制限が少ない学び方なのである。

たとえば、通信講座である。通信講座での勉強は教材の制限がある。まず、その講座を取れば市販のテキストや問題集は買いにくくなる。また、特定の日になると新たな教材が届く。やっていようがやっていまいがお構いなしである。この点、独学なら教材の選択は自由だし、やるべき勉強の締め切りも柔軟である。たとえば、通学である。通学は時間が制限される。1週間のある日のある時間は必ず学校に居なければならず、生活を学校に合わせねばならない。この点、独学では逆に、勉強を生活に合わせていくことになる。

独学では制限が少ないために、勉強の多くを自分なりのやり方で進めることとなる。しかし、ここに落とし穴がある。自由度が高ければ合格するとは限らない。「自分なりにやった」というのは、不合格者のよくある弁である。高校生なら許されるが、いい大人なら許されない。出資者の前、銀行員・債権者の前、女房の前でいってみよ。何の抗弁にもなっていないことが肌でわかるだろう。

もちろんのことだが、「自分なり」を捨て去れというわけではない。自分なりの感性や自分なりの考え、自分の視点というものが、その人の個性となる。無個性ほどつまらないものはない。ノラネコのほうが面白いくらいである。個性を放棄してしまうと共産主義や社会主義下の澄んだ瞳の青年になってしまう。自分なりを捨て去るのも愚かなのである。

「自分なり」のポイントは強度にある。試験勉強の状況に応じて、自分なりの強度を変えて行くことが大切である。ラジオの音量を調整するかのように上げ下げする必要があることを、われわれ独学者は憶えておかなければならない。

「自分なり」の強度を高めておくときは、何をさしおいても勉強の序盤である。さすがに勉強の最初は、自分から志や目標を打ち立てていかねばならない。自分なりに情報を集め、これからの試験勉強の自分なりの見通し、決意を固めていく。これから試験勉強を続けていく核になるのは自分の気持ちである。他人にいわれたからといって、やる気がでてくるわけではない。やはり、自分なりにやる気を鼓舞していかねばならないのである。

次に高めておくのは、試験勉強の終盤にさしかかるころである。本試験が間近になれば、自分の間違えたところやわからないところ、自分があやふやなところをピンポイントにおさえる必要がある。試験勉強終盤の直前期の勉強は、ほとんどが個人的・個別的なことで占められるだろう。このように、「自分なり」にやっていく必要性が高いのは、実は勉強の始めと終わりのほうなのである。

それでは、「自分なり」の強度を低めておくのいつか。低くしておくのは、始めと終わり以外である中盤である。試験勉強で広く語られることは正しいことが多い。たとえば、その試験では最低限、過去問を3回は解いておかねばならないといわれていたら、やはり3回は繰り返してないと勝負にならない。試験で頻出事項や重要事項といわれていることは、やはりやらなくては点数にならない。多くの受験生がよいという問題集(過去問)はやはりよいものであるし、ダメといわれているものはダメである。試験の実情に応じて、必要なものはやらなければいけないし、大事なものはおさえていく必要はある。こんなところで「自分なり」にやっても仕方がない。出るものは、自分がどう思おうともやるべきである。過去問でどんな馬鹿げた出題で無駄と思おうとも、チェックはしておかねばならない。中盤では、自分になりにやっても実力はつかない。自分なりの強度を低くしておかねばならないゆえんである。

自分なりのポイントは、独りよがりになっていたり、独善になっていたりしていないかである。物の考え方や見方が偏っていないか、自分だけが正しいと思っていないだろうか。自分なりのやり方というのは、実際には、自分の好みや好悪が色濃く反映してしまう。結果、誤った「自分なり」のやり方に拘泥するから失敗してしまうのである。結局、自分なりのやり方で、自分なりにやられるのである。

「自分なり」というのは、いうほど楽ではない。自分なりに生きているのは、生まれたときか死ぬときのごく短い前後くらいであろう。その生と死の間は他人なりに生きている。たとえば、父であり母であろうし、男であり女であろう。夫であり妻であろう。兄であり弟であろうし、上司であり部下でもあろう、友人でもあろう、犬の飼い主でもあろう。人生では思ったより、自分なりに生きていないものである。試験勉強もそのようなものと思っていい。人生と試験勉強とを重ねて見るのは、ちと穿ち過ぎであろうか。

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