感謝について

感謝の心が大事だという。ありがたいと思うことがよく生きるコツといわれる。しかし、本当だろうか。アタマに浮かぶのは抹香くさいおばあさんである。「ありがたや、ありがたや」と部外者にはわからないものをありがたっている。

どんなことにも感謝せよといわれても、腹立つものには腹が立つし、イヤなことはイヤなのである。それなのに単純な事実をねじ曲げてまでありがたがる必要があるのだろうか。事実に目をつぶってまでありがたがるのは、賢明ではないし良心にも反しよう。

しかし、見落としている点がある。事実はひとつであるが解釈や感じ方、考え方は多様なことである。事実はひとつしかない。Aがこういった、Bがあんなことをしたというのは、ひとつしかないが、捉え方は実に異なってくる。

会社では実にイヤな人で爬虫類のように忌み嫌われている人でも、家庭では自分以上に嫁や子供に慕われている人もいる。何であんな人にあんな人が一緒になるのかと、ちぐはぐながら仲睦まじい夫婦を見る。感じ方・考え方が実に異なっている証左である。更にいえば、考える主体の自分でさえ、調子のよいときと悪いときでは、解釈が違ってくる。

感謝のメカニズムを考えてみる。感謝する、ありがたい気持ちで接するのは、現象をいったんストップさせている。停止は感謝のメカニズムの顕著な働きである。たとえば、「しわが増えたね」といわれたとする。男性のこうした発言には悪意がなく、お互いよく生きてきたなあと好意的に口にしたものである。

しかし、女性は「しわ」と聞いた途端、なにいってやがると憎悪と憤怒が沸き起こることだろう。お前のために苦労したんじゃないかと毒つきたくもなろう。しかし、ここで、このときこそ「感謝」である。「ありがたい」と思えば、なにがありがたいのだろうかと憎悪の思考が少し脇による。ありがたいことが何かあるのかしらんと詮索する気持ちにもなろう。こうして、感謝のひと想いがあれば、負のスパイラル、憎しみのエントロピーの増加を防ぐことができるのである。

「ありがたい」と感謝することは、事実の再解釈に繋がる。「しわ」というと年を取ったぐらいの把握しかしてなかったが、よくよく考えてみればそれだけではない。元気にしわを取ることができた、とも考えられるのである。「あなたがいてくれたから、安心してしわを取る生活ができた」ともいえるわけでもある。右往左往はあったにせよ、生きてはいる。見渡せば早死にした人もいる、自ら絶った人もいる、蒸発した人、事業が倒産して離散した人もいる。しわが増えた会話ですら、立場と身分が違えば違ってくる。片割れを失った人にとっては、言われること、聞くことさえできない。クソババア!鬼嫁!、ごくつぶし!給料低いな!といわれるうちが一緒にいられる時期である。そう思えば、ありがたいことではないか。

ありがたいと感謝の気持ちを持つことは、意味を再度、問い質す機会になる。肯定的且つプラスに、よい方向へと考える機縁となるのである。ありがたいというのは、「それはよい」という結論が先にありきの理だからである。「〇〇はありがたい。なぜなら。。。」と考えざるを得ない構造になっているからである。

わたし個人の見解では確かに、よく生きるコツは何かと問われれば、肯定的であることと楽天的であることは欠かせない。今まで記憶に残っている人はみな、そういう人だった。億の借金があってもジョークや洒落っ気のある人であった。アタマのいい人やウンチクを語る人、グダグダいう人は記憶には残らないものである。親戚ですら名前を憶えていない。しかし、いつもニコニコしていたおばさんやおじさんは憶えているものである。褒めてくれた人は何年たっても憶えている。

感謝の気持ちは、まず負の考えをストップさせる。この時点で過ちを犯す可能性は減る。先ほどのしわの例でいえば、相手は肯定的にいったのに反感と憎悪で返されたらたまったものではない。それを上回る怒りで報いられるであろう。そうして感謝の第二の効果、意味の再構築がおきる。感謝の気持ちは、結論が決まっているので肯定的に考えざるを得ない。であるから、物事の意味を深く多面的に捉えざるを得なくなる。よい面があることを見つけざるを得なくなる。世の中、ハッと悟ることの方が多い。知るだけだったということも多い。

うまくいかないときは、よく事態が見えていないときである。判断を過つのも自分だけの意見、視点でしか見ていないからである。もっと広く、もっと深く見れば必ず妙案やチャンスはあるものである。であるから、半強制的肯定思考の感謝の気持ちなのである。感謝の気持ちがあれば、配偶者の一言や上司の嫌味、同僚の僻みや無能、しつこいセールスマンから保険のおばちゃんまで、ああ、いい勉強になったと上手に対応できるようになるのである。感謝とは受け流す技術なのである。

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