試験の勉強なのですが

資格試験を受ける動機はいくつかある。ある人は転職を、この人は昇進を求め勉強する。とはいえ、資格試験では直接的にお金を求める人は少ない。スグにお金を稼ぎたいなら株式トレーダーか焼き芋屋をやるであろう。人は、経済的なものではない何かを資格試験に求めている。では、その何かとはなんだろうか。簡単にいってしまえば、学ぶ機会を求めているといえる。

学ぶことで、人生は開かれるという。学ぶことは、人が生きていく上で大切だという。そして、学べばよりよく生きることができるという。しかし本当だろうか。

それは本当である。人は学ばなければならない。しかし、ここでいう「学び」とは、何も専修学校に行ったり、本を読んだり、問題集を開く作業に限定されない。生活一般での学びといえる。われわれは普通に生きていても、学ぶ機会を得ているものである。

もし、家に帰ってきて、部下が5人になったよとか、バイト君が15人になって管理が大変だ、と愚痴つつも嬉しそうに語ったとする。そのときは、褒めてほしいのである。責任が増した自分を見直してほしいのである、認めてほしいのである。しかし、そこで「フーン」程度で聞き流すと、話した者はいたく傷つき、週1が月1になる。そして、1年後にはサッパリ営みはなくなるのである。えてして部下やバイトに手をつけるのは、少なからずお世辞が存在する関係だからである。お世辞でも嬉しいものである。ひとことが、現在の起因なのである。因果応報である。

もし、美容院から帰ってきた人の髪型をみて無関心を装ったり、感想を聞かれても「フーン」で済ましてしまえば、夕食のレベルは1段階落ちることであろう。化粧でも然り、洋服でも然り。無関心が度重ねれば次第に中食惣菜が増え、ところどころにコンビニの容器が見え始めるようになるだろう。サラダでさえ、野菜の切る手間を惜しむようになるであろう。これもまた、因果応報なのである。なぜ我が身に無関心な者の、身体心中に関心をもてようか。人は己を知る者のために死す、己を喜ぶ者のために顔作りす、と古人はいった。

何も知識や知恵をつける行為だけが、学ぶことではない。知識や知恵を身につけるのは、学習である。学ぶとはもっと対象が広い。人は日々の経験を学び取ることで、軌道を修正し人間関係を修復する。人情の機微を知る。よく学びよく生きるとは、身を損ねない生き方なのである。だからこそ、学ぶことは大切なのである。

生きるのに本当に資する勉強は、学ぶ勉強である。見過ごしていたことに気づく、知らないことを知る、興味を掘り下げる、問題・課題を明らかにする、疑問点を自分から追及する勉強である。しかし、こうした学ぶ勉強では試験では不利になる。

試験の勉強は、「学ぶ」とは趣きが違う。真面目に勉強しているが、落ちる人がいる。このような人は、別段、能力が低いわけではない。また、サボっているわけでもない。実は、この人は学ぶことと試験勉強とを一緒くたにしてしまっているのである。学ぶことが試験勉強開始の動機であったため、学びと試験勉強とを同心円に捉えているのである。「学び」と「試験勉強」とは、中心がずれているにも拘らずである。

このずれに気づかずにいると、実に大きな差が生じる。試験の勉強なのであるから、試験に勝つための勉強をしていかねばならないのである。試験は試験と割り切った者から勝つのである。また、試験勉強と学ぶことを一致させようとすると、どうしてもいらぬところに労力を割き、合否は危うく脆くなる。学ぶ意志の高い人ほど、努力の割りに試験に受からないという現象が現れるゆえんである。

それでは、試験勉強なのだから、試験に勝つことだけを考えればいいのであろうか、試験だけと割り切って勉強しないといけないのであろうかというと、そうでもない。

こういうことである。勉強開始序盤なら、興味9:試験1くらいのウエイトでよい。こういう世界があるのね、こういう仕組みだったのね、で進めていけばよい。問題演習が進んだら、興味中心の勉強を試験勉強にウエイトを置くよう変える。8:2、7:3と試験勉強を中心に据えていく。

直前期になれば、試験勉強中心にならざえるを得ない。しかし、1割はどこぞ自分の勉強をする。たとえば、1時間の勉強をするなら、6分は何か試験勉強に関して自分の興味、疑問、謎をメモ書きか日記に書き留めておくことに時間を割きたいのである。実は、この1割の作業が受験後の、ひいては合格後の自分を決めるといってよい。

試験勉強は受験後にこそ資するものである。試験勉強期間は短いことを、我々は忘れがちである。我々は試験後のほうが長いのである。古人は、収穫の1割を貯蓄せよといった。わたしはそれに倣いたいのである。試験に勝っても必ずしも人生で勝つわけではない。人生で負けぬよう戦うのが上将と思うが、如何であろうか。

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