知識と知恵

知識は、憶えることで蓄えていく。知恵は、考えることで生まれてくる。昨今では知識より知恵が大事というが、本当だろうか。インターネットとパソコンの普及で、知識の位置は以前より低下したのは間違いがない。試験問題を解いていて、単純な知識の有無、しかもどうでもいい些細な知識を尋ねる問題にあたると、「ネットがあれば3秒で解決する問題を出すなよ」と呟いてしまう。知識や情報が、手軽にそして瞬時に手に入る世の中になったからこそ、考えること・知恵が大事になるというのである。しかし、そうだろうか。

うつ病の人は、実によく考える人である。そういうことまで、まあよく考えるなあと思う。もっと違うところにエネルギーを注げば、人類社会の発展に寄与するのにと思う。たとえば、香辛料の研究でもしてもらいたい。新たな漬物の可能性でも開けるのではないか。話が外れたが、要は考えることだけではよくないわけである。

しかし知識編重も、困ったものである。「これ知ってる?」と矢継ぎばやに聞かれてもむかつくだけである。生兵法は大怪我の元であるという。昔から兵書を丸暗記しただけでは、戦に勝てないのは常識であった。暗記だけの知識偏重でもよくないのである。

知識も知恵も、憶えることも考えることも、両者はともに大切なのである。車の両輪である。思考とは、それ単独で存在するものではない。いくら天賦の頭脳があろうとも、考えるべき材料となる知識やデータがなければ、よき結論、優れた判断、見識にたどり着くことはできない。逆もまた然り。データばかり、本に書かれていることばかり、パソコンの前ばかりで知識を求めて蓄積しても無用有害である。

知識−知恵の関係と憶えること−考えることの間柄は、バランスが大切なのである。想像してみよう。片一方の車輪が大型トレーラー用のタイヤで片方のタイヤが軽自動車用のタイヤであれば、実に走行は骨が折れるであろう。実際にそんな大きさのタイヤで走れば、どちらかのタイヤに高負荷がかかり、磨耗はあっという間である。

試験勉強にあてはめる。憶えるだけの記憶だけの勉強はしんどい。同時に、考えるだけの勉強もしんどい。それはタイヤの例宜しく、編重した勉強は実に負担が大きいからである。負担が大きければ、それだけ勉強を止めるリスクは高くなる。知識があるから考えることができる。そして、よく考えることができるのである。また、さらによく考えるには、新しい知識が要求されてくる。知識がなければ考えられず知恵も湧かないのである。

問題を考えてもわからないのなら、その問題のテーマの知識を充実してみることである。まず、テキストに戻ろう。テーマに関する重要語句をキチンと憶えているか確認してみる。定義や法則、公式の記憶に不備はないかを確かめてみる。解答に役に立つ表やリストを暗記できているかチェックする。考えてダメなら、新たな知識を憶えるか既存の知識を磨き上げる。さすれば、今以上に更によく考えることができるであろう。うんうん唸るのは恋の問題だけでよい。

コツコツまじめに努力し、知識は蓄えられ、記憶が充実しているのに、点数が伸びない、実力がつかないのは、考えることが少ない証拠である。考えないからこそ、点数を生む知恵が湧いてこないのである。問題演習をしてみることだ。解説をまずは土台にして、なぜ答えはこうなるのか、こう導かれるのか、考えていくことである。今ある知識が十分こなれていない状態になっている。新しい記憶や知識の追加投入は止めて、今ある手持ちの知識を生かす方針でいく。考えることが苦手なら、まずは解説通りに思考の道筋をたどればよい。誰もあなたに新たな知の世界を切り開くことや、哲学を構築してと頼んでいない。解説を支えにして、考える練習をしていけばよいのである。わたしも解説を元に考えることにしている。

知恵が湧かぬなら知識を追い求めよ。まずは元手になる知識を身につけよ。元本たる知識が身に付いたならよく考えよ。よく考えて知恵を長じさしむべし。広く深い知恵が湧くようになれば、こんどは知恵が新たな知識を呼んでくる。利息の如し。結果、元手の倍以上の知識になるだろう。記憶にも残りやすい。

上手に学ぶとは、何を憶えれば効果的に考えることができるか、どう考えていけばたくさんの知識を呼び込めるかを見ている。考えるだけの作業、憶えるだけの作業を別個単独に行うよりも、実はこっちの複合重複の方が楽なのである。知識と知恵は相反するものではない。ともに叡智を占めている仲である。われわれが真に必要とするのは叡智なのである。

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