らせんのように

独学のベースは、繰り返すことである。つまり、同じテキストを何度も読み、同じ問題集・同じ過去問を何度も解くわけである。勘違いしていけないのは、繰り返しを非効率と思うことである。繰り返すのは、試験勉強において特効薬なのである。

試験勉強というのは、事務や報告といった類のものではない。これらと試験勉強とを同列に論じると過つ。事務であれば、同じ書類を何度もやる必要はないし、させる必要もない。2度3度同じ書類をやるようならば、それは無駄であり、やらせるならば無駄である。報告も然り。1回で済むところを何度も注進し、また聞く方が何度も聞き直すのは無駄である。しかし、試験勉強は事務や報告の延長にあるわけではない。事務・報告では無駄なことが、試験勉強では一転して有用なのである。

繰り返しを、似ているものに置き換えて考えてみよう。繰り返しは、らせん階段に似ている。らせん階段でピンと来なければ、上向きの矢印がくるくるとうず巻き状態になったベクトルを思い起こして欲しい。

らせん型の繰り返し学習は、第一の特色に楽な点がある。勾配が低いからだ。そもそもらせん階段なる構造物は、普通の階段だとあまりに勾配がきつくなる建物に設置される。らせん状なので、段差の一段一段は緩やかで登りやすくできる。勾配が緩やかだと時間はかかるが、誰でも最後まで登ることができる。

また、同じものを繰り返すのだから、見たことのある問題に数多く接することになる。そして、繰り返すにつれてなじみの問題が増えていく。やったことのある同じ問題なのだから、取り組みやすいし復習もしやすい。もちろん、同じことを同じようにやるので記憶にも残る。2度3度同じ問題をやれば、問題文と解説、答えのおおかたは憶えてしまうものである。

新しい問題に数多く挑戦する学習を考えてみよう。通常の階段にたとえてみる。通常の階段では、段差の一段一段がきつくなることが多い。勾配が急だからである。もちろん、それはそれでいい練習になるのだが、「やってやるぞ!」と奮起して取り組む素晴らしい人は、数少ないものである。大半は登るにつれて息切れしてメンドクサクなる。付け加え、新規の問題は心理的なストレスが大きい。見たことのないもの、見知らぬものは、意外にかったるい。なじみ問題との演習に較べたら、多量のやる気を投入せねばならないだろう。

次いでコストの問題もある。繰り返しは、勉強上のコストが少なくて済む。毎度、おなじみの手あかのついたテキストと問題集、過去問が相手である。もちろん、必要に応じて新規の問題集を入手していくことにはなるが、最終的には数冊で事済む。毎回毎回、新規の問題を解こうとするとお金がかかる。問題の調達時間と問題集代金も馬鹿にならないのである。

そしてなにより、繰り返し学習を推す理由はムラができないことである。まずといっていいが、1回しか解かない問題演習というのは「わかっていない」のである。いくらテキストでみっちり知識をつけたからといっても、また、いくら華麗に正解をたたき出したといってもである。

問題演習は正解してそれで終わりではない。骨の髄まで吸収しなければならない。同じ問題を繰り返すことで、これまでは見えずにいた点、見落としていた点、憶え間違いのあった点を発見することになる。そして、繰り返すことで従来の問題の解き方が洗練される。同じことをやるからこそ、洗練されていくのである。

新しい問題ばかりを解くようだと、本人はできたと思っているが、実際にはスカスカの穴だらけ、見落としや意味の取り違いに気づくことができない。また、問題の解き方もワンパターンに陥り、幅がない。

以上、繰り返し型の勉強と新規問題投入型のふたつの問題演習を見てきた。違いを簡潔に言えば、前者は万人に、後者は千人程度に開かれていることである。

もちろん、新規の問題を解きまくるのはよい勉強のひとつである。しかしながら、十分なやる気と体力、理性的かつ実際的な計画、復習がシッカリできる環境であり、問題の1問1問を明晰に分析し、自分の物にできる人ならば、という条件がつく。新しい問題をどんどんと自分の物にできれば、短期間で効率的に、そして投下する努力量も少なくして合格を果たすことができるだろう。しかし、これは先ほどいったように千人に開かれた手法である。あなたがその千人に入っているかどうかは保証されていない。

馬鹿のひとつ憶えという。逆にいえば、馬鹿でもひとつのこと、つまりここでは1冊ならできるわけである。ひとつできれば、それをひとつづつ上手に積み上げていけばよい。これなら少しの馬鹿でもできる。「できる」を積み重ねていけば、うまくいく確率も高くなる。最後には成し遂げられるであろう。愚公、山を移すという。難しいことをする必要はない。われわれは、馬鹿でもできる大知に学ぶべきなのである。

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