青く見えるものである

隣の芝生は青い、という。テキストや問題集を次々と買い換える人がいる。こうした人は隣の青さに目を奪われた人である。まず、われわれが意を留めねばならないのは、試験勉強は「青さ」が実に顕著なことである。

独学は基本的にテキスト1冊、問題集1冊からはじめ、テキストを読みつつ問題集をマスターし、そして過去問に進む。幾数冊もの問題集に手を出すのは、学習の後半になってからである。テキストは1冊でさえ、みっちりと読むには時間がかかる。いわんや、数冊をや。問題集も同様である。1冊を仕上げるのには、少なくとも1ヶ月はかかる。よい問題集となれば、直前期にやってもまだ飲み込めるものがある。何時の間にやら2冊、3冊も買い換える人がいるが、何時の間にマスターするのか、疑問である。

試験は6割から7割を狙えという。逆にいえば、3割から4割はやらなくてよいわけである。なぜ6割強でよいのかというと、残りは費用対効果が悪いからである。やってもよいのであるが、やるうちに基本的な頻出事項を忘れ、結局、最終的な点数は低くなるのがオチである。であるから、3割・4割の難解な問題は避けるのが試験の鉄則になるのである。

本試験は、3割から4割はわからないものになる。よくよくみれば、最高4割もわからないものがあるとは厳しいものである。車の運転操作のうち4割もわからなければ、ドライブなどとてもいけないだろう。本試験に不安を覚えるのも無理はない。だからといって、この4割に立ち向かうのは試験戦術上、得策でない。点数にならない。おさえるにしても手間を食う。重箱の隅を突くのは高級料亭のおせちだけでよい。

いわば、試験というのは根源的に不安定要素を抱えるものなのである。「確かなもの」がないのである。であるから、受験生は試験に対して確信や確証を得られないのである。それらは自信に直結する。頻出事項といえども、自分が受ける試験に出題されるとは限らないわけである。実際には、頻出群を確信なくおさえているだけである。

とはいえ、合格者といえども「確かなもの」はなかったのである。特筆すべきことである。憶えておいてほしいのは、合格者の言は、合格の前後では込められた言葉の実感が全く違うのである。「過去問を3回やれば受かる」というアドバイスがあるとする。同じ言であっても合格前後では、言い方の調子が違うのである。

合格前は「過去問を3回やれば受かる。。。んとちゃう?」と、少し曖昧な言い方であり言葉には張りはない。腕利きので刑事なら見逃しはしない。しかしこれが合格後になると、「過去問を♪3回やれば♪受かるよね〜♪」みたいに、軽いポップ調になるのである。しかも動く確信とでもいおうか、実に雄弁に語るのである。実に変わってくるのである。いかに実際の試験時には確実なものがないかというわけである。単的にいえば、合格したからこそ自信満々にいえるのである。弾丸を通さぬ頑健な体だからこそ、スーパーマンはでギャングに立ち向かう勇気があるのと同様の構造である。

3割4割がわからず、そしてそれらは対処不能なのが試験勉強である。であるから常に不安を抱えることになる。試験勉強は、根源的に「隣は青く見え」てしまうのである。どうしても、そのほかのテキストや問題集は、青々と目に入ってくるのである。テキストの記述に悩み、問題の答えに頭をひねりながら本屋に入ったとき、「隣」であるテキストや問題集は目に飛び込んでくる。

テキストや問題集は、表紙と書帯が凝りに凝られている。優秀な編集者の条件は、いかにして表紙等のレイアウトが目に留まるように手練手管を砕くかにある。見も心もそぞろでフラフラしているとき、つい手にとってしまう文言がそこには溢れている。家出少女を笑えない。

わたし自身の経験から、これと1冊決めたなら、しばらくは本屋には行かない。というのも、見ればどうしても揺れ動いてしまうからである。さすがプロの仕事である。本屋に行くのは、にっちもさっちもいかなくなって行くか、それかある程度進んでから覗きに行く。

よっぽどの誤字・脱字、逸脱がない限り、テキストや問題集は買い換えない方がよい。へぼテキストでも、1冊目をキチンとやってから買い替えである。いや、しっかりやらねば、なぜそのテキストがへぼなのかわからないものである。意味も理由もなく買い換えてはならない。しっかりやっておけば、実状、2冊目からはゼロから始めるのではなくなる。加速度的に新しいテキストを吸収していける。少なくとも1冊目のやったことが残っている。

幸せの青い鳥は家にいたという。試験勉強とは結局、目の前のことをこなしていくしかないのである。うまくいかないときは、どうしても青々と目に入るものである。新しい教材は、わたしたちの「労力」を補うものではないのである。やはり、金では買えないのである。

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