悩み知らずで高枕

わからないものは本来いやなもので不快不愉快なものなのである。勉強は本来不快なものと向かい合わねばならぬから骨が折れるのである。現に、テキストだいすき!という人はほとんどいない。わたし自身、見たことがなく聞いたこともない。数十年見聞きしないのだから、いるとすれば狂信者であろう。勝手に殉教すればよい。

テキストは膨大な情報が詰まっている。よきテキストほど情報量が多い。ギッシリすし詰め状態である。合格後でもわからないほどである。よきテキストとは、試験に出るところを余すところなくコンパクトにまとめたものである。ならば、よきテキストは全部憶えなばならなくなる。さて問題が生じてくる。読んでわからないことである。

魯迅はこういった。古い時代は資料が少なすぎてわからない。最近のことは資料が多すぎて余計にわからない、と。テキストも同様である。テキストがわかり難いのは宿命である。なぜなら情報が多すぎるからである。分冊化すると買いにくい、値段も張る、調べ難い。結局、今ある一冊ギュウっとギュウっと試験のエキスたっぷり濃縮しましたというテキストに従わざるをえない。使いやすさが洗練された後の形なのだから、やっぱりこういう形式に構成に編集になるのである。

資格試験のわからないは、チト根が深い「わからない」である。わたし自身経験のあることだが、わからないを調べても解決したためしがないのである。新聞雑誌小説書籍を読んだときのわからないとは別種のワカラナイなのである。

テキストに使われている言葉を字引にあたっても出てないことが多い。仕方がないので本棚まで足を伸ばして分厚い辞典で引いてみるが、載ってはいるが余計にこんがらがる。わからないに変わりがない。こんなことがたびたびあるとテキストでわからない用語や言葉があっても調べなくなる、調べても無駄だからである。

試験とは、簡単にいえば語彙の世界である。その資格業界の語彙をどれだけ集めたか揃えたか憶えたかで勝負の大半は決まってしまうのである。考えさせる問題、といって新規の問題が出てくるときもあるが、なあにあれは新しい試験委員に試験制度になったかで、新しい酒は新しい皮袋の要領、またはお抱えの問題作成コンサルタント(もちろん試験実施機関の再就職先)へ仕事を出すためのことだろう。試験の本質は、その試験なり実務なり業界なりの言葉を知っているかどうかを試すことに変わらない。試験の難易度とは、その語彙への挑戦の深いか浅いかである。一般信徒なら南無妙法蓮華経とだけ題目を唱えればよいが、坊主になれば妙法蓮華経如来寿量品の第いくつかを憶えねばならないのと同様の話である。

資格とは、専門用語への登竜門なのである。専門用語はわからないと決まっている。どんなに考えてもわからない。実をいうとその専門語を行使する人もよく分かっていないのではないかと思う、少なくとも試験で問われるように厳密に言葉は使われていないだろう、落語「大工の調べ」のように「アレどうなってる?」「アレはアレしてアレアレしました」「あーアレならアレをちょっとだけアレしといてね」「アレアレ?アレでいいんじゃ?アレレレ」ってな感じではなかろうかと推測するものである。アレの部分を業界独自に短めにした暗語にしたらより実感が持てるだろう。倒産をトンダというが如くである。

専門用語は死んだ言葉である、実際にその業界であっても使われることはまれであろう、使われる生きた言葉は、本当によく使われる言葉用語だけで、日本語の読み書きができ年歳も若ければスンナリなじむ程度の言葉であろうと考える。死んだ言葉は生きている職場では使われないものである。死んだ言葉ばかりが使われている職場は死んだ職場である。

試験とは専門用語を問う語彙の世界である、そして専門用語はほとんどが死んだ言葉であるから、その用語を追う事は骨が折れるのである。引いても調べてもわからないのは、その言葉は死んでいるからである。調べれば調べるほどわからないのがオチである、そしてイヤになってやめたくなるのである。生きている言葉、たとえば「愛」という言葉を調べてみよ、刮目することだろう。愛とは動詞で語られるものである、週の回数胸に聞いてみよ。一方はギャフンもう片方はニヤリとすることだろう。

わからないことが出てきても、調べずに先に進むべきである。試験では6割で合格ラインである、ならば理解も6割からである。特に学習初期は5割も意が通ればそれでよい。5割ならよくやったと、わたしなら鍋焼きうどんと熱燗でマア一献ご苦労さんと慰め差し上げたくなるものである。それほど、100%の理解は無理な話で、5割で上々6割なら万々歳なのである。もともとわからぬものをわからないと悩む必要は皆無なのである、と理解なきアタマを持った我が身を慰めつつグウグウ寝るわたしなのである。

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