楽しむために

「合格なんて飾りです、えらい人にはそれがわからんのです!」

なんというパラドクスでございましょう。

資格試験という、ひたすら合格を目指す作業を根底から覆してしまう、威力がございます。

しかし、実感として、資格試験の合格とは、お勉強のオマケでしかないよ、というのが実感でございます。

いざ、取得してみると、次なる戦いが待っているので、合格したことなど、どんどん忘れ去っていくのでございます。

わたくしはいま、ペン字のお勉強しています。

わたくしの、現在の難敵は「文字」でございます。

ペン字3級を目指して、日々励んでおります。

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なぜ、ペン字検定を受けようと思ったか、それは、恥を憶えたからでございます。

のた打ち回るミミズ。

わたくしの恥とは、このように形容することができましょう。

舞台は、かようでございます。

駅前駅ビル一等地、市内で有数有名の、小粋な高級ホテルでございます。

晴れやかに友人の結婚式が行われたのでございます。

なんというおぞましきことでございましょう。

受付の芳名帳に、のた打ち回るミミズが現れたのでございます。

帳面に書かれたわたくしの名前と住所は、ミミズの鼻糞のようだったのでございます。

「ミミズがタップダンスを踊っている」

己のクソ汚い文字を見て、フト漏らした感想でございます。

恐怖と不快感たるや、本人でさえ愕然としているのですから、新郎新婦は唖然・呆然・慄然としたこと間違いないことでございます。

それぐらい、己の字の汚いことを、ハッキリ悟ってしまったのでございます。

字が汚いのは重々承知しておりました。

これまでは、「まーーー、汚い」で済ましておりましたが、そうも行かなくなったのを肌で感じたのでございます。

人は、年齢を経るごとに顔と背中に責任を持たねばならないと申しますが、わたくしの場合、まず「字だろ」というわけでございました。

というわけで、現在のところ、ペン字の3級を目指してがんばっているわけです。

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ペン字3級は合格率が60%ございます。

しかし、3回は受験しないと合格しないな、と心底思いました。

それでも、難しいというのが実感でございまして、3回で合格なら御の字だという意識がございます。

なぜか3回もかというと、集中ができないのでございます。

まだまだ、集中して字が書けないのでございます。

ちょっと油断すれば、字が乱雑になってまいります。

もともと、「文字なんて記号だ」「どう書くより、何を書くのかが重要だ」という考えでしたので、どうしても焦りがちで、落ち着きに欠けるのでございます。

極端にいえば、「文字」たる文字が書けないのでございます。

1文字目がうまく書けないと、あとに続く文字がグダグダになるのでございます。

きれいに書こうとすると、もっとウンコチャンになるのでございます。

首をひねる毎日でございます。

これまでの資格の経験が全く通用しないのです。

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たとえば、法律系の資格なら、論理パズル。
たとえば、簿記なら、正確な処理。

このようなことを念頭に置き、お勉強と練習を重ねれば、何とかなったものでございます。

法律系の資格勉強では、ひとつひとつにはこだわらず、全体の文脈の中で考えていけばよかったのでして、「ココ1個」に集中するというのは、それほどなかったのでございます。

ざーーーと流すということができたのでございます。

簿記も1単元、1節に尽力するというよりかは、全体の中でのその意義を掴み、頻出事項に集中してトレーニングをすれば、事足りるものでございます。

ここで必要とされているのは、幅の広い、視野の大きな集中力と申せましょう。

しかし、わたくしの、現在の課題のペン字となると、一字一句、集中して書かなければなりません。

狭い、限定的な集中力が要されるわけでございます。

お勉強の進め方も違います。

法律系のお勉強なら、数時間でもできるものでございます。簿記もトレーニングの一種ですから、数時間は作業を続けることができるでしょう。慣れたら、誰でもできるんです。

しかし、字を一字一句集中して書くという作業を、30分以上強いては1時間以上なんて、わたくしの現在の状態ではムリだと踏んだのでございます。

ですから、ペン字のお勉強を進めるにあたっては、15分だけ、キッチリ集中して一字一句、一意専心してやるがよかろうと、踏んだわけでございます。

夜の10:00から10:15までの15分だけ、一意専心してペンと紙とお手本の前に座るようにしたのでございます。

そうして、ようやく、「フッと」「スッと」文字を書けるようになったのでございます。

ペン字の練習は、従来のものとは違うんだ!と気付いたときに、カタストロフが生まれたのでございました。

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試験の内容によって、やり方を変えていかないといけないわけでございます。当たり前のことなのですが、なぜかわたくしは、従来の旧習を取っていたのでございます。

どこか違う、なんか違うなぁという違和感を感じたときは、違和感を大切に致しましょう。

わたくしが15分だけ一意専心するという、やり方に活路を見出したのも、コレまでの作業に、全くの違和感を感じたからでございます。

どんだけ例題や過去問を繰り返しても、ひとっつも字がじょうずになっていなかったのです。

違和感から抜け出し、集中の糸口見つけるには、試行錯誤を意図的に取るがようございます。適当に試行錯誤を重ねるのです。

もちろん、行き当たりばったりを、試行錯誤とはいわないのでございます。

テーマを設定し、あーだこーだ、試しながら進めるが、試行錯誤でございます。

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試行錯誤を円滑に進めるには、「どうせなら〜〜」という発想を抱くのがコツでございます。

壁にぶつかり、めんどくさくなって、イヤンになったとき、こんな風に考えたものでございます。

「どうせなら、疲労した中で、練習する方法を模索しよう」
「どうせなら、5分だけ、ギンギンに集中する訓練をしよう」
「どうせなら、体の力を抜いてコンニャクになったつもりで字を書こう」

「どうせなら、〜〜」とは、要するに、「もともと効率的ではないけど」ということを前提においておくものです。ダメでモトモトでございます。

すると、気持ちに1ミリ程度の余裕が生まれるのでございます。

テーマという横軸を置いておくと、「おお、きれいに書けたじゃん」とか「スムーズやん」といった肯定的な感想や、「筆意がみえんのぅ」など気づきもしなかった欠点を、発見できるようになるのです。

突拍子もないテーマが生まれると、集中の糸口が見えて来るのでございます。

まずは、集中できる糸口を探し出す。試行錯誤の冥利はそこにあるのでございます。

もっといえば、目の前のお勉強を、スムーズに円滑に進めることができないのは、なにかキーとなるものを落としているからでございます。

「キーを知っている人は、シッカリしたお勉強をしている」と仮定するがようございます。

「わたしは、キーを知らないから、できない」と展開するのです。

「キー」が見つかれば、お勉強なんて誰でもできるものでございます。

わたくしが、ペン字という強大な壁にぶつかったとき、「クソ落ち着き払って書く」というテーマが生まれたときに、壁を乗り越えた感がありました。

「いま、火事になっても、地震がおきようとも、ガス爆発しようとも、目の前の字だけを書く」というテーマでございました。

このときに、「単に、1文字だけ、考えればいいのか」と悟ったわけでございます。

先のことなど考えず、今、目の前の、まさにペンに書かれんとする「字」だけ、集中したらいいのか、と気付いたわけでございます。

「先が見えた発見」、それがお勉強のキーでございます。

同じように、汚い字しか書けぬとも、先に光明があるのとないのとでは大きく違うものでございます。

試行錯誤は、この「キー」を探し出しているのでございます。

そして、この「キー」を探し出すことが、楽しいのでございます。

ため息と共にあるのが、お勉強の楽しみなのでございます。

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お勉強の最初は、つまらないものでございます。

しかし、途中から、がぜん、楽しく・おもしろくなってきます。

その瞬間は、なんともいえない上達意欲と向上心を得ている最中でございます。

この瞬間は、無理やりに進められるお勉強では味わえないものでございます。

求めよ、されば叶えられん、とはまさにその通りでして、金言中の金言でございます。

キチンと求めないと、頂けないのでございます。

資格試験という合格を目指すものであっても、基本的にお勉強とは、何らかの新しい意味を汲みだしていく作業でございます。

新しい意味が自分の中に組み込まれたとき、それが喜びなのでございます。

わかる喜びの拡大したものが、意味の喜びでございます。この大きさの差たるや、キュウリとヘチマほどございます。

せっかくのお勉強ですから、楽しくできる「己」を掘り起こせばよろしいのでございます。

合格だけが楽しみ、というのではないのでございます。

試行錯誤の原因と結果、その解明と効果を味わうのも、お勉強の隠れた魅力なのでございます。

あなたの受ける資格は、たくさんの人がモウすでに、合格しております。その先達者のうちの何人かは、「楽しく・盛り上がりのある」お勉強で合格した人もいるハズでございます。

試行錯誤による発見を繰り返していくと、独学というライフスタイルが楽しめるようになるのでございます。そうなると、しめたものでございます。

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