チョココルネに思う

選択肢をぎりぎりまで絞ってみても、2つ3つは残るものである。答えはひとつしか撰べない、よくよく問題文を読み検討しても、どれもこれもが、やはりよさげである。しかたないので、「エイ」と掛け声、ひとつを選び、解答用紙にマークするわれわれである。点数に繋がるかどうかは、運としかいいようがない。

こういう状況に遭遇したとき、もっとよい方法、もっと確実に点を稼げる方法はないかと思う。免罪符然り、虎の巻然り。その方法があるとしたら、こういうものであろう。

最適の解法であり、問題の意図が瞬時にわかり、解答がアタマに浮かであろう。最短の方法である、最も短い時間で答えを出せる方法である、蛍光灯の点火の如くパッと瞬時である。そして、誰でもできるものでなければなるまい。旧帝国大学の〇〇学部出身でないと使いこなせられ方法であってはならない。こうして「Best」−完全なノウハウが生まれたとする。「Best」は多くの受験生から、歓喜の声で迎えられるだろう。

ここで立ち止まってみる。

最上は最悪に通じるという。愛する配偶者は、愛人にとっては、最も忌むべき存在となる。彼を愛せば愛するほど、強烈な腐臭が胸に湧くようになる。古人は、世は陰と陽から成り立つという。世人は、憂き世は牛が引く小車 という。ある女男優は、正負の法則という。われわれにとっての最上は、出題者からすれば最悪である。

点差をつけようとしているのに、受験生の多くが落ちなければ、出題者は困ったことになる。出題者の面目は丸つぶれである。「なにやってたの?」と桧舞台が1年に1回しかない出題者は、上司・上役にジロリと白目をむかれるだろう。

この白目に奮起しない出題者はいない。なにより、彼らにはプライドがある。一流の実務者であるからこその出題者なのである。受験生など所詮は素人、その素人にいっぱい食わされたのである。燃えないわけがない、コンチクショウ。

彼らもプロである。「Best」の存在に気づく。一般の受験生が入手できるのである、手に入れられないわけがない。かくして、絶賛された至高の「Best」は、すぐに対策が施され、次年度には見る影もなくなるのである。下手をすれば、問題自体に大きく変更が加えられるかもしれない。こうして神通力は失われるのである。活版印刷が神父の権威をうばったように。

こう考えると、Bestを購うのは、ほんの一瞬一時期しか、しかも下手をしたら通用自体しないこともあるのだから、考えようである。下手をしたら試験に大きな不正ありとて試験自体が再試験となれば、購う意味がなくなる。こうしてわれわれは、最上より次善を求めるようになる。完全なものは、より完全なもので息を止められるのである。徒歩駕篭馬車人力車自動車を思う。

われわれが、最上の方法を求めるのは、できたり、できなかったりするからである。憶えたり、忘れたりするからである。われわれの勉強は、この両方を揺れ動いているわけである。この不完全性を何とかしたいが故に、われわれは、「Best」を求めたわけであるが、それも役にたたないことがわかった。

しかしわれわれが思い起こさねばならない事は、ときたま勉強は成功している事実である。理解や記憶は、少しくうまくいっているのである。少しであるが、それは間違いのない事実である。勉強の初期に較べれば、格段に問題は解けるだろうし、テキストの意味もわかるだろう。兎角に、われわれは失敗ばかり・できないものばかりに目が行く。そして、数少ない成功例を見落としていくのである。

できない・わからない、の揺れ動きは、いつも同じペースや節回し、同じ調子ではない。忘れても再記憶の時間は短いし、解けた問題が解けなくなっても、ヒントさえあればスッと解けるものである、解説を読めば、「嗚呼」と声を出すようになっているものである。失敗は成功の元である、という格言を実感できるのはこういうときであろう。

失敗を重ね成功にたどり着くのを、試行錯誤という。試行錯誤はたいそうなものではない。チョココルネをタテにしたようなかたちである。コルネはチョコレートがたれないように、細いほうを下にしておこう。螺旋型の逆ラッパである。

試行錯誤は、チョココルネのように、らせん状に膨らみ伸びゆく。われわれは、失敗を平面に見がちであるが、もっと多面的なのである、縦横斜め、奥行きまである。そして、チョコレートという核心・本質的な経験にまで認識は到達するのである。

チョココルネは、巻いていけばいくほど、パン身とチョコレート部分が増える。試行錯誤の実践も同様のかたちである。やってもできないというのは、コルネ下のスカの部分で立ち止まって往生しているだけである。それはまずい。もう少しでチョコレートなのに。わずかであるが進んではいるのだ。核心にガブリつけば、くどいけどおいしい試行錯誤の妙味を堪能できるはずなのである。

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